安全性情報の管理業務の高度化
製薬業界における医薬品の安全性情報の管理は、利用者である消費者にとって非常に大きな役割を担っている。製薬企業は、消費者が医薬品を利用することで発生、あるいはその可能性がある副作用等の報告について、情報を入手・評価したあとに、必要に応じた規制当局への報告や、適切な措置を講じている。
そんな安全性情報の管理業務は、近年、規制要件が一層整備され、高度化に向けて世界的に活動が推進されている。
高度化を概念的な面でとらえた場合、1960年代の「副作用情報の認識期」から現在の「有用性評価の成熟期」まで段階的に発展してきたといわれている。
規制要件の整備により製薬企業における安全性情報の管理業務が高度化されてきている一方で、製薬企業での担当者にとっては、大きなチャレンジになっていることは言うまでもないだろう。
なかでも、副作用等の報告を1件1件評価し、必要に応じて規制当局に報告する業務に当たる「個別症例の評価業務」への影響は大きい。ここからは、個別症例の評価業務にフォーカスをあてて話をすすめていくこととする。
求められる要件が規制によって年々高度化してきていることで、医薬品の副作用報告などの規制当局への報告件数は、直近5年間で大幅に増加している。平成23年度の報告件数は26万件に達し、報告件数の大半を「企業からの報告」が占めている。なお、年平均成長率は約20%にまで上っている。
26万件という数字の大きさだけではなく、この件数は「規制当局」に報告された数であり、その前に製薬企業に報告された件数は、相当な数があることになる。一般的には、製薬企業から「規制当局」に報告が必要な症例の割合は、製薬企業が受けた報告の20%前後と言われている。この数値をもとに逆算すると、100万件以上の副作用等の報告が製薬企業に寄せられ、1件1件評価されていることになる。
平成18年度の「規制当局」への報告件数を基準に見た場合、平成22年度の約26万件という数字は、実に2.5倍に当たる。
企業努力により業務の効率化が推進されていたとしても、報告件数の2.5倍増は、業務負荷が相応に増加するものである。増加した業務負荷を吸収するための対応は色々とあるが、どこまでの対応をとれるかは往々にして企業の業績によるところが大きいものである。
では、この5年間における報告件数の増加と製薬業界の動向はどのような関係にあったのだろうか?