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日本企業の進化論-激動の時代に生き残るための選択肢

なぜイノベーションは難しいのか-事業アイデアがビジネス化しない要因は「組織」にある

第21回:日本のハイテク産業再生の布石(3)

これまで日本のハイテク企業のイノベーション促進の観点から、マネジメントの課題と、ビッグデータ活用の課題について検討をしてきました。イノベーションで成果を出すには、いかに実行し、改善するかであるということを述べてきましたが、今回は特に組織的なテーマについて検討をしていきます。今までの連載はこちら。

体制据え置きで進まない新規事業-ビジネスプランで見落としがちな“営業の工数問題”

 ベイカレント・コンサルティングでは、日本のハイテク企業のイノベーションのさまざまなフェーズに関する支援をさせていただいています。

 企業にとって「イノベーションを生み」、「ビジネスでの成果」につなげるまでには、さまざまな困難が伴います。一般的にイノベーションの最大の難関は、いかにして独創的なアイデアを生むかにあるというイメージを持つ方が多いかもしれません。

 日本のハイテク企業に関しては、そうではないことが多く、むしろアイデア創造後、ビジネス化するまでのプロセスに大きな課題があります。課題は突き詰めると、社内にその要因が存在することが多いのです。

 特に多くの企業でみられるのが、「体制据え置き病」、「待てない病」です。これは、イノベーションをビジネス化するにあたっての営業部門、管理部門に関する課題です。イノベーションを支援するプロジェクトを通じて分かったこれらの課題の原因について説明し、最後にこれらを乗り越えイノベーションをビジネスにするための組織のあり方についての提言を行います。

 (この記事では、BtoBあるいはBtoBtoCビジネスを想定したものに限定していますが、BtoCビジネスにおいても、同様の体制の課題が存在すると考えられます。)

体制据え置きで“営業スキル”は十分か?

 イノベーションのアイデアをビジネス化しようとする「初期フェーズ」では、多くの企業で極めて少人数の企画チームを構成し、ビジネスモデリングを行います。続く「実行フェーズ」で営業活動を開始する際、企画メンバーがそのままスライドする形で営業メンバーとして動き出すケースが少なくありません。

 ビジネスに対するオーナーシップを持ったメンバーであり、企画段階から内容を理解しているメンバーが営業活動を行うことは一見合理的に見えます。しかし、企画能力に優れたビジネスパーソンが営業能力も兼ね備えているケースは実はそう多くなく、営業スキル面で不足したプランニングになってしまいがちです。

 ある大手メーカーの例では、約10名のメンバーで新規ビジネスの企画を行い、そのままのメンバーで営業活動を開始しました。“全員営業”で乗り切ろうとの認識が、実質的に営業活動を行える(交渉や営業に関する意思決定ができる)メンバーは、“2名しかいない”ことが分かってきました。“営業スキルの不足”がボトルネックとなって、営業活動のペースをビジネス展開の開始時から落とさざるを得なくなりました。

 優秀な社員といえど、何のスキルを持っていて何ができないかを明確にしたうえで、不足スキルを補充する必要があったのですが、「抽象的なレベルでのスキル見積もり」しかできていなかったのです。

“自由度が高い商品”の営業には、工数がかかることを盛り込めているか?

 ビジネスプランを作成する段階で、営業活動の工数見積もりを行いますが、多くの企業でこの見積もりが甘くなる傾向があります。「イノベーションのビジネス化における営業活動」は新規開拓の営業であるため、相手が正しい交渉相手なのか?相手のニーズは何か?といった基本的な部分の把握から始める必要があり、予想以上の工数が割かれます。

 さらに、商品の自由度が高い場合、この工数がさらに増大します。

 自由度の高さは、「用途、性能・品質、価格等の要素」が決まっているか、「選択・交渉の余地があるか」で決まります。イノベーションをビジネス化する「初期の段階」では、これらの項目に自由度を残して、将来的な標準モデルを検討しながら営業活動を行うケースがあります。そのため、工数は非常に膨らみます。ハードウェアの場合は用途や性能が定まっていることが多いのですが、ソフトウェアやサービスでこれらの自由度が高い場合は営業活動に膨大な工数がかかることを想定すべきです。

 ベイカレント・コンサルティングで営業支援を行ったケースで比較すると、最も自由度が高いケースと低いケースにおいて、その差は回数で1.4倍、1回あたりにかける工数で3.0倍になり、1件の商談に費やす時間を累計すると、4.2倍もの差が出ることがわかりました(図表1)。

 比較した両方のケースは、いずれも新しい技術を活用したモバイルサービスの事例で、営業活動の内容としては非常に類似していますが、それでもこれだけの差が生じるのです。自由度による営業工数の増加分をプランニング段階で加味しておかないと、リソース不足ですぐに営業活動が手詰まりとなってしまいます

図表1.商品の自由度の差と営業工数の差

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既存のビジネスと同じ管理では、イノベーションの芽は刈り取られてしまう

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この記事の著者

ベイカレント・コンサルティング 藤川正徳(フジカワ マサノリ)

株式会社会社ベイカレント・コンサルティング シニアマネージャー。東京大学大学院工学系研究科にて建築学修了。 ボストン・コンサルティング・グループ、マース・ジャパン・リミテッドなどを 経て現職。ハイテク・通信など幅広い業種でターンアラウンド、新規事業戦略、 営業組織改革などをご支援。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/4876 2013/06/17 08:00

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