なぜ新しい発想を生み出す「リフレーミング」が簡単には起こらないのか
既存の思考の枠組みを意図的に変化させることで新しい発想を生み出す「リフレーミング」の重要性とその具体的な方法については、これまでも紹介してきました。新しい発想につながる新しい視点を獲得するための方法として、これまで紹介してきたのは以下のようなものです。
- 視点を変えるための仕掛けをワークショップの中に埋め込む(「最悪のアイデア」、「アンチプロブレム」などの手法を使って 第10回記事参照)
- 他人との対話を通じてリフレーミングをする(「ワールドカフェ」などの方法を使って 第15回記事参照)
- 1つのワークショップの中でも、考える単位を個人、少数チーム、大人数と変化させる(第14回記事参照)
いずれの方法も期待していることは同じです。
“期待していること”とは、「思考する状況をどのように変化させれば普段慣れ親しんだ見方とは異なる形で物事に接することが出来るようになり、その不慣れな見方を通じて、新しい発想につながる新しい思考の枠組みを発生させることが出来るか」ということです。
不慣れな見方をしなくてはいけない状況をつくることでリフレーミングを促す方法として、今回はさらに「人員構成の違う複数のセッションを組み合わせる」、「思考の環境を意図的にシフトさせる」という2つを紹介します。
その前に、なぜ新しい発想を生み出すのにリフレーミングが必要なのかを、私がいま講師を担当させていただいている「発見力を養う!見つける達人養成講座」でお話した内容も取り上げつつ、説明したいと思います。
※「発見力を養う!見つける達人養成講座」は、京都造形芸術大学と東北芸術工科大学の2校が社会人向けに芸術を学ぶ機会を提供している藝術学舎の講座として、7月9日から9月10日までの全5回で開講中です。
講座の第1回目は「何が発見を妨げるのか?」というテーマでしたが、その中で私は以下のようなスライドを見せながら「何かを理解するために使っている理解のフレーム=抽象化による理解が、逆に他の抽象化の可能性を隠してしまうことで、発見は妨げられる」というお話をしました。
知識は“諸刃の剣”だと言われます。ある謎に対して1つの解釈を手にしてしまうことで、人はそれ以上、その謎を解くのをやめてしまいます。そこにはまだ解くべき謎が残されていたとしても、です。よくある騙し絵がそのことをよく語っています。うさぎが見えればあひるが見えなくなるし、大人には裸で抱き合う男女にしか見えなくても子どもの目には別のものが見えたりします。
リフレーミングの方法としてよく用いられる「アンチプロブレム」という方法は、まさにこの諸刃の剣としての性質をもった人間の知のありようが考慮された発想の方法です。
アンチプロブレムの方法を使って何らかの難題の解決にあたる人はまず、問題の解決策を直接考えるのではなく、逆に「“その問題をもっと悪化させる”ための方法」を真剣に考えます。
たとえば「売れ行きが悪くなっているデジタルカメラの売上を改善したい」という問題を抱えていたなら、反対に「デジタルカメラをもっと売れなくなる(全く売れなくなる)ようにする」方法を考えるのです。
多くの場合、問題をもっと悪化させる方法として考えだされたアイデアのなかには、そもそもの問題を解決するヒントになるアイデアが含まれています。普段、一生懸命、問題を解決するために考えても思いつかなかったアイデアが、問題をより悪化させるという逆の視点から考えることで解決の糸口が見つかるのです。
それが普段とは異なる視点で物事を見るというリフレーミングの効果です。
次のページからは、こうした視点の転換を可能にする仕掛けとして「人員構成の違う複数のセッションを組み合わせる」という、すこし大掛かりなリフレーミングの方法を紹介していきます。