小さく仮説検証を行いながらあるべきビジネスの形を探っていくリーンスタートアップ的なアプローチ。顧客経験という観点からビジネス全体を統合的な視点で設計するサービスデザインのアプローチ。いま注目を集める2つのアプローチは、一見すると「小さな学びの積み重ね」と「包括的な視点でのデザインの統合」という、相反する方向性をもつように思われます。しかし実際の現場では、2つのアプローチは両立可能。今回はそんな観点からサービスデザインとリーンスタートアップの組み合わせについて考えてみようと思います。今までの記事は、こちら。
「小さく仮説検証すること」「統合的にデザインすること」をどう両立させるのか?
前回の記事では、大きく2つの点を指摘しました。イノベーション創出を目指す現代の企業にとっては、仮説検証のサイクルを素早くまわすこと必要なこと。まだ誰も足を踏み入れていない未知の領域での学びを、いち早く積み重ねていくことが大事なこと。
そのための具体的なツールとして紹介した「バリデーションボード」は、まさに未知の領域の学びを着実に積み上げていくためには適したものです。
なぜ着実かといえば、バリデーションボードでは、下記の3つの異なるレイヤーでの検証を、順を追って行うことで無駄をなくすことが可能になるからです。
- ターゲットユーザーとそのニーズに関する仮説の検証(Exploration)
- ソリューションアイデアの方向性に関する仮説の検証(Pitch)
- ソリューションデザインの有効性に関する仮説の検証(Concierge)
実際にモノやサービスの開発を始めてしまう前に、3つの視点で仮説検証を行うことが必要です。「市場の現状とはまったくかけ離れた単なる思い込み」かもしれない仮説を、早い段階で排除できるようになるかれです。そのことで、開発に無駄なコストを割いてしまうリスクを減らせるからです。
つまり、危険なリスクに目をつむったまま先に進めてしまうのではなく、リスクがありそうな仮説は早めに小さな実験を通じて検証を行うことで、できるだけ早い段階で進むべき方向性に間違いがないかを確かめるようにするのです。

現代のビジネスのもう1つの流れとしては、「サービスデザインの観点」からビジネスの形を見直すことも大事なことです。サービスデザインでは、顧客の経験価値の向上を中心としつつも、顧客だけではないサービスに関わる様々なステークホルダーの経験も考慮に入れながら統合的にサービス全体を設計します。
商品やWeb、各種チャネルなどの個々のタッチポイントをバラバラにデザインするのではなく、タッチポイントをどう有機的に組み合わせれば顧客経験という観点からみたサービス価値が高まるかを考えるのです。
サービスデザインとは何か?については第12回の記事で紹介していますので、そちらを参照いただければと思います。
ここからは「統合的な視点が求められるサービスデザイン」と、「小さく失敗しながら進むリーンスタートアップ」の一見相反するところもある2つのアプローチを、現実レベルでどう両立させていくかということについて考えていきたいと思います。
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棚橋弘季(タナハシヒロキ)
棚橋弘季(たなはしひろき) 株式会社ロフトワーク所属。イノベーションメーカー。デザイン思考やコ・デザイン、リーン・スタートアップなどの手法を用いてクライアント企業のイノベーション創出の支援を行う。ブログ「DESIGN IT! w/LOVE」。著書に『デザイン思考の仕事術』 など。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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