データビジュアライゼーションで誰でもデータサイエンティスト
今回のJR東日本の対応やデータを購入し利用する日立の行動を擁護するわけではないが、あまり神経質になりすぎて、ビッグデータ活用の恩恵を受けられなくなるのもなぁとは思う。高度なビッグデータ分析手法を提供するだけでなく、適切なルールに従い最大限にそれを活用できる環境を作る。これもまた、IT業界が早急に取り組むべき課題だろう。
さまざまな問題をはらんでいるものの、ビッグデータ活用は着実に増えている。それを裏付けるように、国内外のCIOなりにアンケートをとると、アナリティクスが優先テクノロジーのトップになっていると指摘するのは、SAS Institute Japan マーケティング&ビジネス推進本部 本部長の北川裕康氏。企業のIT投資が従来の基幹系システムから情報系システムに移行。いや「むしろ、情報を扱うシステムが、基幹になってきている」と北川氏。
企業にとってプライオリティは高いものの、なかなか進まないのもアナリティクス。そこには、イージー・アナリティクス、誰でも簡単に高度な分析を行えるようにするという需要がある。と同時に、ビッグデータ活用のプロフェッショナルとなる、データサイエンティストを育てていくことも大事。この両方に、いまSASは力を入れている。
そして、イージー・アナリティクスを実現するため、先日同社が発表したのが「SAS Visual Analytics」だ。SASは統計解析、高度な予測分析など、分析の専門家が利用するイメージが強い。この製品のターゲットは、それらとはちょっと異なる。データビジュアライゼーションを実現するもので、考えるスピードで分析処理ができるもの。たとえば、自動グラフ機能が装備されていて、どういうグラフを作るべきかをユーザーが考え選択しなくても、分析したいデータからツールが自動でグラフ化してくれるのだ。
つまりは、高度な知識や技術がなくても、高度な分析ができてしまう。なので「ライバルはExcelのハイエンドユーザーです。これで意思決定の改善できます。データからパターンを見つけ、素早く意思決定ができるようになります」と北川氏は言う。
SASでは、以前からBIとアナリティクスを分けて捉えている。BIは、過去の事象を分析するもの。アラートやOLAP分析、アドホック検索や定形レポートなどがその領域だ。これに対しアナリティクスは、将来予測、最適化、予測型モデル、フォーキャスティング、統計的なアナリティクスなど「これから何が起こるのか」を分析する。
BIとアナリティクスは、どちらか一方を選べばいいものではない。両方が必要。今後は、それぞれを利用する環境はより融合化していくだろうと、北川氏は予測する。実際、いままでBIを手がけてきた人たちが、いまアナリティクスに対し強い興味を持ち始めている。
ところでSASでは、IBMと同様、ビッグデータを表すキーワードには、4つのVがあると言う。Volume、Variety、Velocityまでは一緒。4つ目は、データの正確性を表すVeracityではなくValue。つまりは「価値」だ。ビッグデータの中から価値ある関連データを見つける。その関連データを高速に分析するところまでやらないと、ビッグデータ活用には至らない。そのためには、価値あるデータを発見するところと、そしてそれを分析するところの2つが必要となる。それが、SASの主張だ。
BIは、価値あるデータを発見するところを主に担う。これまでも、社員の誰もが利用できる簡単BIツール的な製品は世の中にあった。今後は、アナリティクスの部分もより簡単になり、幅広い人たちが利用するようになる。その1つが今回の「SAS Visual Analytics」だ。誰でも簡単に分析できるようになれば、ビッグデータ活用もより大きく広がる。もちろん、データサイエンティストのような専門家が、じっくり考え価値を見出すところもある。自社には、イージー・アナリティクスとデータサイエンティストのどちらが必要なのか。ビッグデータを始めたければ、まずはそれを見極める必要がありそうだ。