旅館やリゾートホテルの経営再建を次々と成功させ、リゾート業界に新風を吹き込んだ星野リゾート。今なお、独自の経営手法で急成長を続ける同社だが、その裏にはビジネスの急拡大を支えるITの貢献があった。そこで、星野リゾートのIT戦略やその具体的な取り組みについて、IT部門のキーマンである同社 グループ情報システム ユニットディレクターの久本英司氏に話を聞いた。
競争力の源泉となる“自社固有”の業務プロセスは自社開発でカバー
――まずは、久本さんが星野リゾートに入社されたきっかけについて教えてください。
ちょうど10年前、東京から軽井沢に移住するにあたって、何か軽井沢でできる仕事はないかと思い、たまたま星野リゾートが運営するホテルで結婚式を挙げていたこともあり、軽い気持ちで「何か仕事ないですか?」と問い合わせたのがきっかけでした。もともと東京ではITの仕事を長くやっていたのですが、移住を機にITからは足を洗うつもりでした。でも結局はまた、ITをやるはめになっています(笑)

──10年前には、すでに星野リゾートの社内にIT部門があったのでしょうか?
影も形もありませんでした。当時はまだ、地元の軽井沢で旅館とホテルを運営する小さな会社でしたから。ただ、売り上げ自体はそこそこありましたし、東京に店舗も構えていましたから、基幹システムやネットワークは構築されていました。ただしすべてベンダーに丸投げで、社内で誰も管理する人がいないという状態でした。IT専任の社員は、私が初めてだったんです。
──現在でも、当時のシステムを使い続けているのですか?
私が入社して間もなく、会社がビジネス拡大期に入って、運営するリゾート施設の数が徐々に増えてきました。そこで、運営業務の効率を上げるために、グループ内のシステム統合に着手しました。それまでは手組みの基幹システムを使っていたのですが、機能不足や保守性の問題に悩まされていたので、将来を見据えてパッケージ製品に切り替えました。一方、周辺のサブシステムに関しては、そのほとんどを一から自社開発しました。
──サブシステムというのは、具体的には?
予約業務サポートや勤怠管理、顧客満足度の分析といった業務を支援するシステムです。基幹業務はどの企業も内容は大体同じなのでパッケージ製品で簡単に済ませる一方、競争力を生み出す自社固有の業務に関してはスクラッチ開発で最適化したシステムを導入するというのが基本方針でした。実際にはCRMや予約システムのパッケージ製品も検討してみたのですが、当時はホテル業に特化した製品がなく、結局は自分たちで作らざるを得なかったという事情もありました。
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吉村 哲樹(ヨシムラ テツキ)
早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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