経営者の視点で考える「事業ポートフォリオの最適化」
企業にとって、「ヒト・モノ・カネ・時間」という経営資源は限られています。したがって、限られた経営資源を有効活用するためには、全体を俯瞰したうえで、どこに経営資源を配分すればよいか、考える必要があります。今回は、前回までの戦略投資単体での意思決定から一歩踏み出して、経営者の視点で全体最適を図る「事業ポートフォリオの最適化」についてご紹介します。
前回までは、個別の戦略投資について、ロジックを整理し、仮説を洗い出して、質の高い意思決定を行う手法をご紹介してきました。今回紹介する事業ポートフォリオの最適化は、個別ではなく、全体最適の視点を取り入れて、より良い意思決定を行う手法です。全体最適の視点がなければ、そもそも、企業全体として最も業績を向上させる選択ができず、全員が全力で頑張ったにもかからず、会社全体としてはそれほど業績が向上しないということにもなりかねません。いくつかの戦略投資を実行する際に、全体を俯瞰して、もっと業績を向上させる可能性があるかどうかを検討することが、事業ポートフォリオの最適化です。
ポートフォリオと聞くと、「金融資産の組み合わせ」を思い浮かべる読者が多いでしょう。事業ポートフォリオと言う場合のポートフォリオとは、プロジェクト・事業およびそれらの戦略の組み合わせを指しています。「安全性や収益性・成長性が異なるプロジェクト・事業などの組み合わせ」という広義の意味で用います。ここでは、戦略投資を含めて、プロジェクトや事業を総称して「事業」と呼ぶことにします。
これまで事業ポートフォリオの評価・分析は「定性的な評価」が中心で、個々の事業戦略の方向性を分析するために利用されてきました。読者の中にも、「2×2のマトリックス分析」をご覧になったり、利用されたりした方がいらっしゃるのではないしょうか。しかし、近年は「全体最適を目的とした定量評価(経済価値評価)」による事業ポートフォリオ・マネジメント手法が注目され、利用が進んでいます。
「優先順位付け」や「一律カット」ではなく「最適化」を選択しているか?
「どの投資を実行すれば良いのか」という問題に直面したときに、事業の現場でよく行われているのは、「優先順位付け」です。「どんな評価指標で優先順位付けするか」が最大の問題ですが、評価指標が明確であれば、優先順位付けは大変わかりやすい効果的な方法です。実務的にも、予算が限られている場合に優先順位付けを行っている企業が多いと思います。優先順位が低い戦略投資は、実行が見送りされますので、結果的に実行される案件の数は減ることになります。
また予算に対して、投資案件が多い場合には「投資額を一律カットする」ということもあるようです。これは、設備投資ではあまり起きませんが、期間の長い研究開発投資では毎年のように起きています。予算が承認されていたはずなのに、年度末が近くなって枠が削られてしまうという、現場の誰もが困ってしまう予算変更です。なぜ困るかというと、前回までの連載でご紹介したように、それぞれの戦略投資はそれぞれのビジネスプランを持っています。それぞれのプランを考慮せずに予算をカットしてしまうと、戦略投資が目的を達成できない事態に陥りかねません。予算の一律カットは戦略投資には全く向かない経営資源の配分方法です。
「優先順位付け」や「一律カット」と「最適化」が大きく異なるのは、「最適化では、案件数を減らさなくても済む場合を探すところ」です。具体的には、ある戦略投資の経営資源を、他の戦略投資案件に一部回すなど、再配分を考えます。この経営資源の再配分を適切に行うロジックを「最適化」と呼んでいるのです。