このハイプサイクルについては書籍も出ています。2008年にHarvard Pressから発行された『Mastering the Hype Cycle』がそれで、ビジネスにおけるハイプサイクルの有効な活用法について触れられています。
週明けに開催が迫ったガートナーの年次カンファレンス「Gartner Symposium ITxpo 2013」に来日する海外アナリストのひとり、ガートナー リサーチ バイスプレジデント 兼 ガートナーフェローのマーク・ラスキーノ(Mark Raskino)さんは『Mastering the Hype Cycle』の共著者で、CIOと呼ばれる人々がハイプサイクルを意識しながらITトレンドを取り入れていく方法について、各方面で有益なアドバイスをされている方です。また、モノのインターネット(Internet of Things)の専門家でもあります。「ガートナーの海外アナリストに聞いてみた」最終回では、このラスキーノさんにデジタル革命と言われる新時代がどういう時代になるのか、ハイプサイクルとの関連性も含めてお話を伺いました。
ハイプサイクルのただしい使い方
--ラスキーノさんはハイプサイクルの専門家だと伺っています。そもそもハイプサイクルはどうしてあんな形をしているのでしょうか。
ラスキーノさん: 新しいイノベーションが登場したときに市場が示す反応 - 誕生、期待、失望、そして再評価までの流れを描いたものがハイプサイクルであり、縦軸は期待の大きさを、横軸は時間の経過を表しています。ほぼすべてのイノベーション技術はこの形どおりに市場の反応を受けます。したがってハイプサイクルはソーシャルグラフということもできるでしょう。
新しく先進的な技術が誕生したとき、多くの場合、市場は熱狂的にこれを迎え、その可能性をあれこれ語ります。ですが新技術には当然ながら欠点もあります。実際に使ってみると期待していたほどじゃなかった、期待が大きければ大きいほど、失望感も大きくなります。しかし、技術というものはそうしたフィードバックを受けながら進化していくものであり、価値ある技術であれば必ず再び評価されます。イノベーションはハイプサイクルの流れから逃れることはできないのです。
--では企業のIT部門があるイノベーティブな技術(クラウド、BYOD、ビッグデータ分析、etc.)などを取り入れようとするとき、このハイプサイクルをどのように活用すればよいでしょうか。
ラスキーノさん: イノベーションを導入しようとする場合、リスクをどの程度許容できるかがカギになります。テクノロジの黎明期や「過度な期待」のピーク期にある技術は、成功事例のかげに多くの失敗事例が存在することを忘れてはなりません。顕在化している課題やリスクを可能な限り避けたいのであれば、このフェーズのテクノロジの導入は控えるか、再検討したほうがいいかもしれません。
ハイプサイクルはとくにリソース(IT予算含む)が限られた中で選択しなければならない場合に威力を発揮します。また、IT戦略と同様に、ビジネス戦略にも適用することができます。eコマースやデータサイエンスといったマクロ的なイノベーションの採用を検討しているなら、これらがハイプサイクルのどのフェーズにあるかを考慮して決めるとよいでしょう。
--現在は次から次へと新しいトレンドが生まれるので、IT担当者はどの技術を採用すればよいのか、非常に悩ましい時代だと思うのですが。
ラスキーノさん: だからこそCIOを中心としたCxOの存在意義が大きいといえます。
覚えておいてほしいのは、我々はいま、まったく新しい時代 - ITがビジネスの成長戦略に、そして新規参入の競合からビジネスを守るために欠かせない武器となる時代に突入しようしていることです。ちょうど1997年から2002年にかけてインターネットの登場がビジネスを変えたように、あと3 - 5年で、新しい時代の勝者と敗者がはっきりしてくるでしょう。そして勝者の側に立つには、CEO、CIO、CFOといったCxOと呼ばれるエグゼクティブのチーム力が重要になります。さらにCTOがいればより力になることは間違いありません。チーム一丸となって、正しいITイノベーションを導入し、ビジネスを成功に導いていく必要があります。