ラリーのキャンセルよりも後継者問題が気になった
このキャンセルをきっかけに、五味さんはガートナーのマジック・クアドラントを引き合いにOracleのクラウドビジネスへの態度に不信感を示していた。まあ、あのマジック・クアドラントはInfrastructure as a Serviceを対象にしたものだ。2012年にOracleはIaaS参入を高らかに発表したが、サービスインは今回のOracle OpenWorldのタイミング(Web上ではいまだ”PREVIEW”となっている)。正式に始めていないので、あそこに登場していなくても致し方がないか。来年度以降、どうポジショニングされてくるかに注目したいところだ。
Oracleの「業界唯一のComprehensive Cloudだ」という主張については、Oracle OpenWorldのセッションを現地でいくつか聴いた身としては、SaaS、PaaS、IaaS、そしてプライベートクラウド、オンプレミスに至るまでを、同じアーキテクチャ基盤で包括的に提供している唯一のベンダーだと言いたいのだと理解。OracleのSaaSやPaaSを利用しているユーザーがIaaSを使いたいときに、Amazon EC2やWindows Azureしか選択肢がないのはちょっと困る。もちろんこれらのサービスとはオープンスタンダードなインターフェイスで連携できるが、より密接に連携させて使いたければ、同じサービス基盤上にIaaSも用意すべきということだ。
Oracleだけでなく、多くのベンダーがオープンスタンダードが重要だと言う。もちろんそうだろう。とはいえ、オープンスタンダードな口は持っていても、なるべく1つのベンダーで囲い込んだほうが管理、運用は効率的になるのも事実。複数ベンダーの製品やサービスでシステム・インテグレーションをするより、アプライアンスやOracleのエンジニアードシステムが指示されているのも、それを裏付ける。OracleがIaaSを提供するのは、彼らは選択肢の提供と言う。しかし裏を返せば、IaaSもOracle Redに染めてねと言うわけだ。
Amazon EC2は、IaaSでは圧倒的なシェアを確保している。とはいえ、CRMやERPなどのSaaSは提供していない。先日も記事で取りあげたDynamoDBや、RedshiftなどのPaaSというかDBaaS的なサービスも、まだまだ始まったばかり。今後、企業はIaaSだけでなくSaaSやPaaSを組み合わせ、ITシステムの多くを徐々にクラウド化していく。それに対し、Amazon Web Servicesは今後どのようなサービスラインナップを揃えるのか。その際には、クラウドサービスベンダー勢力地図がいったいどうなるのか。
Amazon Web Servicesが、主要プレイヤーであることは疑いない。その他のプレイヤーは、今後は買収の動きも活発化するだろうから予測しにくい。Microsoft、IBM、Oracleなど、体力あるプレイヤーが業界をかき回すことだけは確かだろう。
ところで個人的には、今回のドタキャンよりも、ラリーの後継者問題のほうが気になった。今回の件でラリーの穴を補える人材が、いまのOracleにはいないことが露呈した。多くの人が席を立った事実からも、技術的に十分な知識もバックグラウンドもあるトーマス・クリアン氏では、明らかに役不足だった。HPでCEOを務めてきたマーク・ハード氏でも、おそらくラリーの代役は無理だっただろう。
彼は極めて強烈なインパクトとカリスマ性を持ったCEOであり、そのラリーの強い意志で牽引されているのがOracleという会社だ。とはいえ、そのラリーも69歳。いつまでも強い意志を持ち続けられるだろうか。その現れの1つが、今回のAmerica's Cupへの浮気というか思い入れかもしれない。ラリーがいなくても、しっかりとOracleのメッセージが伝わる。そんな体制の構築が、急がれるところだ。
とはいえこの問題は、先日CEOの交代を発表したMicrosoftのスティーブ・バルマー氏の後継も同様だろう。Appleのスティーブ・ジョブズ後もしかり、極めて強いCEOの次なる体制の難しさだ。Oracleがクラウドで確たるポジションを獲得するかどうかも、次なる体制がどのようなリーダーシップ、カリスマ性を示せるかにかかっているのかもしれない。