業務プロセス変更への抵抗、効果が不明確…「やれない理由」を乗り越えるために
こうした課題を克服している企業もある。寄藤氏は、その例として、グローバルで1つのシステムを構築し、ガバナンスを確立している流通業のケースと、グローバルでのシステム一元化をめざして、まずインフラを4拠点に集約した製造業のケースを紹介した。
「両者に共通しているのは、ITが経営にしっかり組み込まれていること、ITに関する意思決定を自分自身で行っていること、本社からのガバナンスが効いていること。つまり、本社によるリーダーシップ、ガバナンスがグローバルITを実現し、戦略的かつ効率的なIT投資を実現するカギになる」(寄藤氏) とは言うものの、こうした理想を実現することは簡単ではない。
寄藤氏は、そこで、ITコストの最適化、業務の効率化などといった「やるべき理由」ではなく、「やれない理由」に注目することをすすめる。やれない理由というのは、海外売上高比率◯%などの経営目標が先にある(からできない)、海外拠点で抵抗にあう、すでに海外拠点に独自システムがある、海外拠点のIT部門と連携してない、集約/統合について効果がはっきりしない、経営陣がITに対して理解不足がある、などといったことだ。さらに、そういったやれない理由について、クラウドを使って解決していくことで、現実的なグローバルITへの道筋が立てられると主張する。
「やれない理由というのは、おおよそ2つに集約できる。それは、業務プロセス変更への抵抗と、効果が不明確だということ。そして、この2つは、アプリケーションとインフラが分離できること、迅速な拡大と縮小が可能というクラウドの特性を利用することで、対策を導き出せる。つまり、業務に影響を与えないインフラの統合からはじめて、具体的な効果を把握しながら、少しずつ業務プロセスの変更へと範囲を広げていくアプローチになる」(寄藤氏)
もちろん集約の方法はこれだけではなく、企業が抱える事情に合わせて、スタートする場所やタイミング、集約形態を変えていくことになる。海外地域ごとに集約するのか、日本と海外という分け方で集約するのか、地域ごとに自由度を温存するのかなどだ。いずれにしても、スモールスタートし、成果を「見える化」しながら、さらなる集約、統合、標準化へのインセンティブにしていくことだという。
寄藤氏は、最後に、「グローバルITの実現は、ITガバナンスの強化という以上に企業ガバナンスを強化する経営的な課題だ」と指摘したうえで、企業のIT部門に対して次のように訴えた。
「IT部門は、クラウドなどの利用を通じてグローバル市場での競争力強化を実現する推進役になっていくべきだ。これからのIT部門は、企業変革部門としての役割を担う必要がある」(寄藤氏)