Dynamicsの強味は既存Microsoft製品群との親和性の高さ
そんなワークスタイルの変革を目指すSaaSを提供しようとしているのが、Microsoftだ。
先週、Microsoftが「Microsoft Dynamicsフォーラム 2013」を開催した。このDynamics、DB Online読者の方々は、まだなじみ深いものではないかもしれない。これは、Microsoftが提供しているSaaSで、ERPとCRMの領域を網羅している。このDynamicsの最新情報や事例を紹介するのがこのイベントで、今回で3回目の開催。「昨年度の1.5倍の参加登録者がありました。関心が高まっているのに、びっくりしています」と日本マイクロソフト 代表執行役 社長の樋口泰行氏は言う。
Microsoftのクラウドサービスというと、Microsoft AzureやOffice 365が最初に頭に浮かんでしまう。実際、Microsoft自身の押し出し方も、これまではこれら2つに注力されてきたように見える。とはいえ、樋口氏、Dynamicsはいま社内でも大きな注力分野だと強調する。
「Dynamicsは、グローバルでもスタンダード的な存在となりつつあります。なので、たとえば日本企業がM&Aを行い、買収先の海外企業がDynamicsを使っているなんてこともあり、そこから日本でもDynamicsを入れましょうとなる例もあります」(樋口氏)
海外でのDynamicsの導入はかなり先行しており、日本では若干遅れは取っているものの、着実に関心が高まりつつあるとのことだ。
このようにDynamicsが評価される理由は、なんといってもMicrosoftの情報基盤群との高い親和性だろう。SQL Serverのようなインフラ系はもちろん、もっとも強力なのはMicrosoft Officeなどのビジネスには欠かせないツール群との連携が深いことだ。業務の中で、Word、Excel、PowerPoint、OutlookなどOffice製品を利用するのは当たり前だ。さらに、SharePointやLync、OneNote、Yammer、Skypeなど、さまざまざまなMicrosoft製品を利用しながら、業務を進められている企業も多いだろう。
これらのソフトウェアは、単独でもツールとしての利便性は高いが、連携させることでさらに価値は高まる。この場合の連携は、たんにデータの受け渡しができるだけではない。中核にクラウドサービスのDynamicsを配置することで、情報をタイムリーに共有、管理しながら、各種ツールを使い業務のライフサイクルをスムースに回せるようになるのだ。
多くのSaaSのサービスは、基本的にWebブラウザベースのユーザーインターフェイスとなる。別の作業をしたければ、ブラウザ画面を切り替えて利用するのが普通だ。さらに、SaaSの外でSaaSにあるデータを活用したければ、データを抽出しダウンロードして、適切に変換してからExcelなどに取り込む手間が必要だ。これらがDynamicsが中核にあれば、Outlookのメールから自動的にDynamicsの情報にアクセスしたり、Dynamicsの画面からYammerを使って情報共有したり、Skypeで関係者に連絡を取ったりといったことがシームレスに行える。常に必要なデータはDynamicsでリアルタイムに管理される。ユーザーは自分がいまDynamicsを使っているのか、OfficeやYammer、Lyncを使っているのかを意識する必要はなくなる。
当日のイベントでは、このさまざまなツールをシームレスに連携させて利用し、業務がスムースに流れていく様子がデモンストレーションで示された。その際に利用した端末は、Surface。自社のオフィスでも営業訪問先や出張先でも、作業はすぐに始められる。来年登場する新しいDynamicsのユーザーインターフェイスも紹介され、Windows 8に最適化されているようでSurfaceのタッチ操作で容易に操作を行っていた。
Office製品を使い、YammerやLync、SharePointにSkypeを活用し、その後ろにはDynamicsが。そして、これら製品間の壁のなさが、「IT環境をMicrosoft色に染めた」際の大きな魅力となる。Dynamicsのよさを最大限に引き出すには、この「Microsoft色に染める」ことは重要なポイントとなりそうだ。これは、デファクトともなっている各種クライアントツールから、SaaSのERP、CRMまですべて1ベンダーで揃えているMicrosoftだからこそ得られるメリットであろう。
日本マイクロソフト 執行役 Dynamics ビジネス本部長の日隈寛和氏は、次のように語る。
「さまざまな製品を、いかに業務の中で活用するか。それを実現するのがDynamicsであり、これにより生産性を上げて業務を効率化できます」
これはDynamicsがSaaSの1つのサービスとしてではなく、各種ツールを活用する新たなワークスタイル変革の中核として提案できるMicrosoftの強味だ。
日隈氏は講演中に何度か「我々はこのビジネスに本気です」と繰り返し、強調した。個々の製品やサービスを売り込むのではなく、トータルでのワークスタイル変革を提案し、それを市場が受け入れれば、このMicrosoftの本気度も証明されることになるだろう。