このコラムもとうとう今回で最終回を迎えることとなった。今回は長期にデータを保管するという話題に触れてみたいと思う。社会的にデータを長期保管するニーズが高まっているものの、その手法は確立されていない。具体的にどのような点を考慮するべきかについてお話しする(前半はこちら)。
原本が大事か、内容が大事か
データを長期に保管する場合、記録メディアや再生ドライブはもちろんのこと、データを読むためのソフトウェアも重要な要素となる。また、データの内容が大事なのか、それが原本であることが大事なのかによって、保管すべき形態は大きく異なる。内容重視の場合、単純にビット保存のような形でコピーを繰り返し、データのビット列をそのまま維持するような手法では、データ内容を後世に伝えていくことは残念ながら難しい。
例えば、かつてDOS文書プログラムという名のIBM製の日本語ワープロ・ソフトがあったが、このフォーマットで書かれた文書ファイルを再生するソフトは現存しない。故にこのワープロの文書ファイルを後生大事にパソコンのハードディスクに保管してあったとしても、今となっては何の使い道もないのである。これと同じようなことがワープロ専用機で作った文書ファイルにも当てはまる。そのワープロが使えなくなった時点で、これらの文書ファイルは再生不可能なデータとなってしまう。
故にデータの内容が後世に伝えたいと思うようなものである場合、源氏物語のようにデータ形式を常に新しく変化させて保管していく必要がある。テキスト・ファイルで持っていれば大丈夫と考える方もきっとおられると思うが、前述のように文字コードセットや文字そのものが変化してしまう可能性がある。ディスプレイに表示されている化けた文字を見て、未来人が「何だコリャ?」と首をかしげる可能性もあるわけだ。かのチャールズ・ダーウィンも次のような言葉を述べている。
「最も強い者が生き残るのではなく、
最も賢い者が生き延びるわけでもない。
唯一生き残るのは、変化できる者である」
一方、現在の状態を維持したまま保管することが重要な場合もある。芸術作品や電子帳票などでタイムスタンプが記録された文書などがこれに当たる。例えば電子帳票の場合、データ形式を変更してしまうと、原本を証明するタイムスタンプ情報が欠落してしまう可能性があるため、データ・フォーマットの変更は困難だ。また、コンピューター上で表現された芸術作品の場合、線や点の動きや表示のタイミング、色合い、解像度なども課題となるだろう。
このような性質のものについては、データを再生する環境を維持していくことに注力を払わなければならない。具体的に言えば再生用ソフトが使える環境を維持したり、そのソフトが動かないのであれば、新しくソフトウェアを作り直したりしてでも、元のデータをそのまま再生できる環境を維持する努力をしなければならない。
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佐野 正和(サノ マサカズ)
1986年日本アイ・ビー・エムの入社、本社SE技術部門で13年間ストレージ製品を中心に技術サポートを行なう。1999年にストレージ製品事業部に移り、以後、IBMストレージ製品の営業推進やソリューション推進、製品企画などの業務に携わる。現在、システム・ストレージ事業部でソリューション担当部長を拝任し、...
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