仮想化で馬鹿に出来ないのはストレージコスト
宮原:一般的にNASというとファイルサーバーというイメージがありますが、最近では仮想化のストレージとしても採用されつつあります。その1つにQNAP Turbo NAS (以下QNAP) があると聞いています。まずはどのような製品なのでしょうか。
池田:QNAP社はストレージを提供している台湾の企業で、私たちフォースメディアはQNAPの日本における正規代理店をしています。QNAPのストレージはハイエンドの大規模向けとコンシューマ向けの中間に位置しており、ここ3年ほどで急速に伸びてきています。昨年あたりから本格的に仮想化にも対応してきました。上位機種の機能をリーズナブルな価格で提供していることもあり、知名度と信頼度が高まってきています。
宮原:仮想化用途としてはどのあたりが差別化できますか?
池田:まずは広帯域への対応です。QNAPですとデスクトップの4ベイモデルから10GbE Readyとなっています。一般的なハイエンド機種と同様の広帯域がカード1枚挿せば利用可能となっており、費用的な効果が大きいです。サーバーを複数台並べたり、ユーザーが快適に使うには遜色ありません。
宮原:いま仮想化を検討しているのはどのような規模やケースでしょうか?
池田:VDI(デスクトップ仮想化)ですと50~100ユーザー、ファイルサーバーなら10~150TBをお求めになるお客様が多いようです。企業内のストレージももちろんですが、大学からの引き合いも多いです。ハイエンドの機能がほしいが、コスト的に抑える必要があるところから注目されています。
宮原:コストパフォーマンス的にバランスがいいのですね。
池田:まさにその通り。私から見るとQNAPの良さはコストパフォーマンスです。2000万円台クラスの機能や性能を1/3~1/4の価格で提供できます。エンタープライズでの採用を目指していますから、性能もまだ伸びていくと期待できます。まだエンタープライズ領域での知名度は低いですが、SMBで着実に実績を積むことで将来的にはエンタープライズにも進出できると考えています。
宮原:大企業ですとサーバーを大量に抱えていたので仮想化によるメリットは大きく、仮想化が進行しました。中小企業は「まだこれから」という印象です。中小企業からすると「コストは抑えたいが、可用性、信頼性、運用面でさほど妥協したくない」と考えています。そういう点ではQNAPはコストと性能で折り合いがつき、SMB向けとはいえ10GbEにも対応してるなど将来の拡張性の余地もありますから、先見性があり、いい差別化要因となりますね。
池田:エンタープライズ領域をターゲットとしているメーカーがSMB向けに「下に降りてくる」のとは対照的に、QNAPはSMB領域からエンタープライズに向けて上を目指しています。実はこういう企業はそう多くありません。SMBやコンシューマをターゲットとしたメーカーですと、開発やハードウェアの都合でエンタープライズを目指しにくいですから。我々はQNAPの「確実に上を目指している」という姿勢に期待しています。なかでも仮想化へのチャレンジはほかが着手しないところでもあり、今年大きく伸びているところです。
宮原:確かにハイエンドを提供しているベンダーさんだと、機能を落とすとか、利益率などを考えるとなかなか下に降りてこられないですね。コストや機能が「高止まり」しているイメージです。近年仮想化を見ていると、ベンチャー企業の進出が目立ちます。
最近のキーワードにはSDS(Software Defined Storage)があります。ストレージもソフトウェアで制御するというものです。インテルアーキテクチャのサーバーを用いればコストを低く抑えられます。まだ「SDS」という用語は普及していませんが。流れとしては確実でしょうね。QNAPも間違いなくその流れにあると思います。
クラウド時代のストレージの条件
池田:宮原さんは昨今のクラウド時代のストレージをどう見ていますか?
宮原:コモディティ化は避けられないと考えています。ビックデータというキーワードで考えると、かつては不要なデータは消していましたが、今では大量のデータから分析するようになり、ローコストでハイパフォーマンスのストレージが求められています。選択肢はAWSのような低コストなクラウドストレージサービスか、低価格のNASを上手に使うかのいずれかです。もうテープでは追いつきませんから。
バックアップも変わってきています。仮想化環境のバックアップは仮想化環境ごとにカプセル化し、いざという時はつなぎなおして運用を継続します。これまで業務系のストレージベンダーがこのような機能を提供する場合ですと、特殊なハードウェアやソフトウェアが必要となるのでオプションになり、価格が跳ね上がりがちです。SDSだとこうした機能を比較的カジュアルに使えるようになると期待しています。
池田:SMBのユーザーには敷居を低くするのも大事です。機能を細かくオプションで提供するより、容量と性能と機能のバランスで価格を分けていく製品のほうが分かりやすいようです。
宮原:そうなるとコンサルタントとしても提案しやすいです。SMBでは仮想化未経験であったり、スキルのある担当者がいない、そもそも専任の担当者がいない企業もあります。複雑な説明や選択肢があるとかえって分かりづらい。必要な機能は「あらかじめ全部入っています」として提供したほうが受け入れられやすいです。
池田:SMBにとっては仮想化はまだハードルが高く、仮想化への移行はこれからと考えています。その分、成長の余地があると見ています。
宮原:大企業ですと大量のサーバーを抱えていたので、仮想化するだけでサーバーの台数を減らせてコスト的なメリットが明確でした。次はSMBですが、ここは「運用コストが下がる」というインセンティブがなかなか働きません。一般的にSMB向けへの提案ではストレージのコストが4割程度を占めており、お客様からすると割高感があるようです。仮想化することで無停止や耐障害性というメリットが得られるとしても、コストが見合わないということで仮想化を踏みとどまってしまうケースがまだあります。
池田:やはり壁は初期投資ですね。
宮原:SMBからしたら「仮想化ですからストレージは多めに」というのは理解できても、全体で1000万の見積の中にストレージが100万程度なら受け入れられるとしても、500万と出されると尻込みしてしまいます。
池田:QNAPには幅広くラインナップがありますが、150~300万あたりの製品が受け入れやすい価格帯のようです。
宮原:SMBからすると「1000万クラスでは5年償却は無理です」という感覚ですからね。
池田:ただ日本は諸外国と異なり、ある程度価格が高くないと信頼されないという側面もありまして(苦笑)。
VMware、Hyper-Vへの相性の良さが重要
宮原:導入実績も重視されますね。
池田:QNAPですとNASでファイルサーバーとしての導入実績があるので、そこが強みになると見込んでいます。お客様の多くはファイルサーバーは身近だとしても、共有ストレージは未経験です。仮想化だと「SAN(Storage Area Network)」など聞き慣れない用語が難解で敬遠されがちです。「基本的にはファイルサーバーです」と説明すると「そうか!」と理解していただけます。
宮原:ここは啓発していかなくてはいけないところですね。QNAPの技術的な特徴についても教えてください。
池田:VMware ReadyであることやVAAI(ストレージをつなぐためのAPIセット)サポートなど、基本的なところは押さえてあります。VAAIは例えば10GBのストレージを構成するとき、仮想化のホストのリソースを使わずにストレージ側で構成することができるものです。こうした機能(API)がサポートされているのは運用する上で重要です。Hyper-Vももちろんサポートしています。
宮原:ユーザーにはうれしい機能ですね。仮想化を想定した製品なのだと分かりやすいですし、仮想化で使えるという説得力があります。
池田:このあたりの情報がハイエンドユーザーに届いていないところが我々の努力不足でもどかしく感じています。それでも今年はQNAPの知名度が大幅にアップしたという感触を得ています。QNAPでプレスリリースを出すと、比較的すぐに引き合いがくるようになりました。正直、すごくうれしいところです。
ノンストップで容量サイズ拡張、SSD積めばさらに強力
宮原:拡張性についてはどうですか?仮想化にすると開発用やテスト用など用途が広がり、すぐに容量がなくなってしまいます。
池田:オンライン容量拡張が可能です。サービスを止めることなくストレージプールの容量サイズを拡張しスケールアップできます。
宮原:仮想化用のストレージを購入するなら押さえておかないといけませんね。
池田:QNAPですと2ベイのデスクトップモデルから"VMware Ready"認証取得済みであり、ラックマウントモデルと同じように仮想化環境で使用できます。小さなモデルから使い始めて、そのデータを使ったまま容量を拡張して将来的にはラックマウントモデルへも移行できます。また更にラックマウントモデルではRAID拡張エンクロージャーを用いての拡張が可能となり、データサイズで言えば1TBから576TBまでダイナミックにスケールアップ可能です。
宮原:性能も気になります。最近はやりのSSDについてはどうですか? 最近展示会に行くと必ずSSDが入っていて、HDDだけというのは見なくなりました。
池田:もちろん利用可能です。SSDでRAIDを構成したり、SSDキャッシュとして使うことができます。このクラスのモデルできちんとSSDを押さえているのもQNAPの特徴です。SSDはまだ高いという印象があるかもしれませんが、そんなに大容量のを積む必要はありません。頻繁に読み書きが発生するホットなところに適用すればレイテンシーをかなり改善できます。なお、ネットワークの性能を高めたければ10GbEも利用可能です。
宮原:SSDキャッシュはどのくらい積むのが妥当でしょうか?
池田:ケースバイケースですが、100GBも積めば劇的に変わると思います。ハイエンドクラスで採用されているSSDキャッシュの様な機能をいち早く搭載してくるのも、優れたポイントです。
宮原:個人的にはプライベートクラウドストレージが気になります。外部のクラウドストレージサービスだと情報漏えいが心配で使えないというお客様もいます。ややコンシューマ寄りの機能ですが、むしろSMBにはうけるのではないでしょうか。
池田:SMBというならプロアクティブデータプロテクションもおすすめです。ディスクで異常を検知したらデータを予備ディスクに移行するという機能です。壊れてからRAIDを再構築するのではなく、予防的にデータを移し短時間でRAID再構築を完了させます。
宮原:確かにSMBですと詳しい人がいるとは限りません。この機能があると限りなくメンテナンスフリーになるのでいいですね。安心感あると思います。
池田:運用性や信頼性はQNAPでも特に改善が進んでいる領域です。QNAPのOSにあたるのがQTSで、今秋出たばかりの最新版QTS 4.0では仮想化向け機能、信頼性、パフォーマンスが強化されています。QNAPは精力的に機能改善を進めているベンダーなので、今後も性能強化が期待できます。機能強化はソフトウェアで行われ、バージョンアップは無償ですから今後さらにエンタープライズ向けの製品との性能差は縮まってくる見込みです。将来性という面でもQNAPはおすすめです。
SAS対応モデルも発売
宮原:ハードウェア面ではどうでしょうか?
池田:従来はSATAドライブ対応のモデルだけでしたが、10月末からはSASドライブ対応モデルも販売開始となりました。SASですとより信頼性が高く、パフォーマンス的にも良好です。SASに慣れているお客様に手を伸ばしやすくなり、引き合いが増えています。
宮原:「SATAだと、ちょっと……」と敬遠する人もいますからね。
池田:最近のSATAはいいのですけどね。
宮原:確かに(笑)。今はSAS版も出ましたから、SATAを敬遠する人には選択肢が増えてよかったですね。実際のところ導入実績の規模はどのくらいでしょうか?
池田:今年だと多い月で2500台程出荷しています。年度末は昨年の倍以上の需要を見込んでいます。先ほど話したように大学を始めとした教育機関や研究機関からの引き合いは多いです。大手企業での採用も増えてきています。
宮原:ほかにも特徴はありますか?
池田:使い勝手の良さ、操作性も挙げられます。あまり高いスキルがなくても設定できるように設計されています。GUIはかなり凝っていてMac OSの感覚で操作できると思います。
宮原:さきほど話に出たプライベートクラウドストレージですね。
池田:今や業界標準になったDropboxと同様の感覚で、QNAPの特定のフォルダ上のデータをパソコンやモバイルデバイス(スマートフォン、タブレット)と同期できます。
宮原:これから数年でSMB市場にて仮想化が進むのは間違いないと予想できます。これまでの大企業で行われてきた性能にシビアな仮想化とは異なるので、ベンダー各社はコストパフォーマンスで競合してくるように思います。
また今後は仮想化未経験でスキルや知識がない担当者でも使えるような製品が好まれるようになるでしょう。その流れでクラウドに注目が集まっているのですが、クラウドを使うのでなければ、こうしたQNAPのようなコストパフォーマンスに優れ、事前検証済みの製品が選択される傾向が高まってきそうです。今後QNAPの製品を中小企業の市場に投入されるフォースメディアの展開に期待したいと思います。
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