SAP HANA SP7が登場、プラットフォームとしての進化でリーダーの座を維持できるか
さて今年のIT業界最大のテーマは、結果的には「ビッグデータ」だったのではないだろうか。だいぶ定着して来た感もあり、一時期のブームから現実的なソリューションに成長した1年だったとも言える。もう1つ挙げるなら、DB Online的には「インメモリーデータベース」だろう。そのインメモリーデータベースの先陣を切っているSAP HANAが、先週最新版となるSP7の提供を開始した。SP6から6ヶ月あまり、順調にバージョンアップを重ねている。
「HANAはSP5が1つの節目で、Business Suiteに対応し情報系とトランザクションの融合を果たしました。そして、前回のSP6でデータベースから情報システムの『プラットフォーム』となり、ステージ的には1つ上がりました。ここからは、HANAはプラットフォームとして進化していきます」
SAPジャパン バイスプレジデント ビジネスソリューション統括本部長の堀田徹哉氏は、今回のSP7は一言で言えばプラットフォームとしてより柔軟性を持ったものだという。従来は速いインメモリーのデータベースエンジンが注目されてきたが、さまざまなアプリケーションに対応する機能が揃い、プラットフォームとして進化しているというわけだ。その進化の1つが、SP6から提供されているSmart Data Access。これを利用することで他社データベースとの連携も容易になった。
SAPジャパン ビジネスソリューション統括本部 リアルタイムプラットフォーム部 部長の大本修嗣氏は、「HANAにデータが全部あるのが理想ですが、バックエンドのデータベースとの連携でHANAの世界は広がっています」と語る。
今回のSP7では、このSmart Data Access用のアダプターとして、Oracle Database、Microsoft SQL Server、Hortonwork Hadoop(Hive)が新たに加わった。さらに、カスタムアダプターを開発するためのSDKの提供も開始され、独自にアダプターを開発してNoSQLを含む他のデータベースとの連携も可能になる。さらに、SP6までは参照だけだったが、SP7のSmart Data Accessでは更新処理にも対応した。
もう1つ、今回のSP7で注目なのが、テーラード・データセンター統合というもの。これ、早い話がHANAをアプライアンス形式だけでなくソフトウェア製品としても提供しますというもの。インストールは顧客サイド、サポートもハードウェアベンダーと顧客の間に結ぶような形式になるが、既存のストレージやサーバー、ネットワーク、仮想化環境などがHANAでも利用できるようになる。現存するすべてをサポートするわけではないだろうが、選択肢が広がり柔軟な導入が可能になりそうだ。
HANAの導入は、グローバルで2,280社、そのうちの450社以上ではSAPのERP製品を使っている顧客だ。日本は累計で100社を超え、うち10社以上がERPを使っている。売り上げは倍々で伸びている状況。「SAPがデータベースの会社としても、プラットフォームの会社としても認知されてきています」と大本氏は言う。
また、SAPではHANAのエンジニア育成にも力を入れている。「日本でも、1年間に250名以上がハンズオンセッションを受講しています」と大本氏。これまでは華々しいマーケティングメッセージと、既存のERPユーザーの開拓が営業戦略の中心だったと思われるが、ここにきて開発者を取り込んでエンジニア側からもSAP HANAの導入を促す方針へと拡大している様子が見て取れる。
SAP HANAがインメモリーデータベース市場の先陣を切り、この1年市場をリードしてきたのは事実だろう。とはいえ、IBM DB2ではBLU Accelerationの提供が開始され、来年に入ればMicrosoft SQL Serverにもインメモリーデータベース機能が追加される。Oracle Databaseでもインメモリーデータベース機能のベータテストが始まっており、来年以降はインメモリーであることとだけでは差別化できなくなる。というよりも、メモリーが十分にあるのなら、インメモリーをまずは利用するのが当たり前となりそうだ。
そうなったときに、SAP HANAがいまのリードを保ち続けるのは容易ではない。他のデータベースには、既存ユーザーベースという強い味方があるからだ。インメモリーを使うためにSAP HANAにデータベースを乗り換えるというのは、ユーザーにとってはかなりハードルの高い選択。このハードルをうまく越えさせるためには、先駆者ならではの魅力的な成功事例の提供と、SAP HANAだからこその特長をさらに見せつけていく必要がありそうだ。