インダストリにフォーカスしパートナー戦略を強化する
今回の新人事体制については、宇陀氏がリーダーシップをとりそれを米国セールスフォース・ドットコムのCEOであるマーク・ベニオフ氏や社長兼副会長のキース・ブロック氏が後押しして決まったようだ。宇陀氏によれば日本のビジネス成績が悪くて社長を首になったわけではなく、むしろ順調ないまだからころ新たな成長のための体制を構築すべきと判断したとのこと。この新体制で目指すのは、社員数2,000名以上売り上げ10億ドルだ。
サブスクリプション型のビジネスモデルであるSalesforceであれば、利用者を積み上げていくことで10億ドル、つまりはおよそ1,000億円の売り上げを目指すことは可能だろう。ただし、その際の会社組織が2,000名を越える規模というのは、日本の先細り感のあるIT業界ではなかなか難しいとも思える。そういった懸念もあってか、自社だけの力ではなくパートナー戦略についてはより一層力を入れる。
日本のIT業界の構造は、欧米とは異なる。日本ではハードウェアベンダーや大手SI会社を中心とし、企業は彼らにITに関わる業務をさまざまな形で「お願い」するビジネスモデルで成り立っている。多くの企業に情報システム部門は存在するが、そこに所属するメンバー自らが積極的に製品選定を行い、選択したIT環境で自らの手でシステムを開発し組み上げることはない。委託しパートナーに作ってもらうのが一般的だ。なのでSIという存在感はこの業界ではかなり大きい。一方米国などには、SIという存在はほとんどない。より上流のITコンサルティングを行う企業はあるが、システムを組み上げるのは自社の情報システム部門のメンバーが中心となる。
世界の中では特殊な日本のIT業界において、外資のハードウェアやソフトウェアベンダーは、日本におけるそれなりのパートナー制度を構築してきた。販売代理店制度や製品のOEM化、さらには率先したSI企業との提携や開発パートナー契約など。製品技術に関する資格制度なども、ある意味パートナー戦略の1つと捉えることもできる。
しかしながら「クラウドの世界では、まだアライアンスはこうあるべきですというのはありません」と川原新社長は言う。セールスフォース・ドットコムとしては、そこを日本の社会にあった形にしていきたい。そのための1つの役割を担うのが、相談役となる宇陀氏だろう。彼は、国内の戦略パートナーとの関係支援を行うことになっている。これは、大手のSI企業などにいかにしてSalesforceのサービスを担いでもらうかを画策する仕事になるだろう。
SalesforceのSI系パートナーは、Oracleのような他の外資系ソフトウェアのパートナー企業に比べると若干弱い。まだまだ旧来日本のIT業界を牛耳ってきたようなSI企業が、積極的にSalesforceを担いでいる様子は見られない。逆に考えれば、クラウドに対し先進的な感覚を持っている企業が、いまは先行しているとも言えるが。
クラウドベンダーのパートナー戦略でもう1つ重要になるのがISVとの関係だ。Salesforceのサービスの上で動くアプリケーションを数多く増やすことができれば、カーバ―範囲も広がり顧客が選択しやすくなる。そのための鍵となるのが、ISV戦略となる。ISVにとってSalesforceというサービスが、クラウドプラットフォームとして魅力的だと感じさせる必要がある。このISVの戦略は、2つあると川原氏は言う。
「1つがインダストリ・フォーカスです。クラウドの上のソフトウェアとしては、今後インダストリに特化したものがどんどん出てくることになります」(川原氏)
今後はインダストリーに特化したクラウド上のアプリケーションを積極的に取りあげ支援していくことになるのだろう。
もう1つがモバイルへの対応だ。昨年セールスフォース・ドットコムでは、時代を先取りするためのモバイルファースト実現する新たなプラットフォーム「Salesforce1」の提供を開始した。ISVの中にもモバイルに対応したアプリケーションに積極的なベンダーがあり、このアプリケーションをモバイルで動かすところをさらに加速させるのだ。この2つを進めるために、インダストリの営業チームとモバイルプラットフォームに強いSEのチームを川原氏直下の組織に集め、新たな組織体制でやっていくとのことだ。
「グローバルの中でいかに日本らしさを出すかが重要です」と小出新会長。日本の顧客視点に立ったものを、いかに提供できるか。リソースには限りがあるので、今以上にアライアンス強化しローカルプレイヤーを増やしていくとも言う。