「全員にiPadを持たせるぞ!」
1. その医療系企業では、社長が海外出張時に日本で発売前のiPadを入手してきた。社長自身がiPadを使ってみたところ、非常に便利だと感じたことがあり、日本帰国後すぐに営業担当の取締役を呼んで「全営業マンにiPadを持たせてはどうか」と投げかけた。
2. その取締役は直感的に良さそうだと感じたものの、システムのことは情報システム担当の取締役のご機嫌を損ねてはいけないと思い、情報システム担当の取締役に相談した。情報システム担当の取締役は、もともとITを得意とする人ではないため、情報システム部長を呼び「全営業マンがiPadを持つらしいから頼むよ」と投げかけた。
3. 投げられた情報システム部長は、当然のように部下たちに「全営業マンがiPadを持つらしい。調達から全部オレたちの仕事だから頼むよ」と落とした。今まで社内システムはすべてWindowsで動いている企業なのに、丸投げされた部下たちは困り果てたが、まずは調達から始めることにした。
4. 情報システム部員からiPad250台の購入稟議が上がり、情報システム部長、担当取締役と捺印申請が回って情報システム部員に承認が下りたのが3日後。そこからアップルストアに連絡を取り、iPad250台の発注をかけて納品されたのは10日後。新品の初期状態のiPadは、情報システム部員によって「そのまま配るわけにもいかない」と判断され、いったん情報システム部に置かれることになった。
5. その後、情報システム部内でiPadをどのように設定するか検討したが、営業部門から明確な要件が出てこない、という理由でそのまま放置されてしまうことに…。 これは、この企業だけで起きていることではない。そして、誰か一人が悪い、という犯人探しをするような状況でもない。これは、企業の仕組みとiPadに対する理解の二面がクリアできていないためにこうなっている。
iPadを使ったこともない人たちが、自社の中でどうやるとより良い使い方がされ、さらにセキュリティ面でどうすると大丈夫なのか、を思いつくわけがない。
また、情報システム部はいつも社内ネットワーク、メールサーバーなど、あらゆるシステムについて文句を言われ続けているため、これ以上厄介なことを抱え込みたくない、という気持ちが強い。iPad配布はできるだけ遅らせたい。褒められることはないけれど、何かあれば自分たちの責任で怒られる役目だから――そういう心情が働くのは至極当然とも言えるだろう。