研究よりも「誰かの役に立つものを作りたい」
かつてはパソコン少年だった。最初にパソコンを使い始めたのが小学三年生。当時はPowerMacで「シムシティ」に興じていた。「オタクでしたよ。ゲームオタクにパソコンオタク」と渡部さん。パソコンも自作?と聞くと「当然」。
学生時代の専門は計算工学。いわゆるコンピュータサイエンスだ。データベース学会ではデータベース界の重鎮である喜連川先生と接する機会もあった。
修士時代の研究テーマは情報の検索に関すること。性能向上のための何らかの方策かと思いきや、少し方向性が違うらしい。渡部さんが研究していたのはデータがユーザーにどのように使われているか、どうすればよりユーザーが求める検索結果を返せるかなど。イメージ的にはオンラインショッピングサイトのレコメンド機能に近い。何かの商品をカートに入れると「この商品を購入した人はこの商品も買っています(こちらもいかがですか?)」という具合だ。
ただし厳密にはショッピングサイトのレコメンドとはまた違う。渡部さんが検索対象としていたのは特定の製品ではなくファイルだからだ。ユーザーがファイルを使うときのアクセスパターン、つまり「この文書とこの資料は一緒に使われる」などを分析することで関連性を見いだし、「あなたの探しているファイルはこれではありませんか?」とファイルシステムやOSが検索しているファイルをレコメンドしてくれるようなものだそうだ。
研究成果はデータベース学会で表彰されたこともあった。しかし現在の渡部さんは研究者ではなくエンジニア。研究者としての道に進まなかったのはなぜかと問うと、「実用に遠いから」と、渡部さん。研究の場は将来の可能性を模索する側面もある。「実現しないものに関わるより、実際に誰かの役に立つものを作りたい」と思うように。また、「SIerのほうが(研究職に比べて)元気がいい」と思えた。渡部さんには顧客と接しながら働いているエンジニアが「生き生きと見えた」そうだ。「技術の現場を知りたい」と思い、最終的には現在勤めているNRIに就職した。