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プライバシーフリークカフェ

そんな大綱で大丈夫か?―第2回プライバシーフリーク・カフェ(前編)

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 山本一郎、高木浩光、鈴木正朝からなる「プライバシーフリークの会」。プライバシーフリークカフェは、竹を割ったようにというよりも、つきたての餅のように、ねちっこく、しつこく、辟易するまで腹いっぱい…気の向くまま、気の済むまでの全力投球なプライバシー・個人情報保護に関する対談です。 法と技術とビジネスと様々な視点から斬り込みます。―今回は、IT総合戦略本部で決定された「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」について「大綱サイコー(再考)!」と題して行われた第2回プライバシーフリークカフェのもようを、前後編に分けてお届けします。(*本対談は7/1に行われました。この8日後、ベネッセ事件が発覚しました)

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 高木 山本さん遅刻ですね。間もなく到着だそうですが。さて、第1回からずいぶん経ちましたが、いつでしたっけ?前回は。

 鈴木 もう半年前ですね。

 高木 そんな前ですか。で、どうしましょうか。司会者いらっしゃらないので、ちょっと状況を。えーと、大綱が出ました。先週決定されました。その名も、なんでしたっけ?

 鈴木 「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱(PDF)」ですね。

 高木 あれ?パーソナルデータの保護とか、そういうんじゃないんですか?保護じゃない?

 鈴木 利活用大綱ですね。

 高木 利活用!利活用制度大綱。こんなんありですか?

 鈴木 んーまあ、そもそもこのミッションがアベノミクスの三本の矢の経済成長ですからね。まえがきには「ビッグデータ」という言葉が躍っていますから、産業界からの強い意向を受けてですね、まさに、ビッグデータで経済成長のために改正しようと。こういう内容です。

 高木 はい。今日はこれについて、うだうだ。

 鈴木 うだうだ、やっていきたいと思います。

 高木 いろいろ突っ込みを入れる、と。

 鈴木 はい。

 高木 最初にボケようと思っていたのに。「あれ?ゲストは?」って。なのに司会がいない(笑)。ボケられない(笑)。

 鈴木 なんか、爆弾発言を用意しているとか言ってる割に、来ないですね(笑)。では、隊長を待つ間、ちょっと復習でもしてましょうかね。「なぜビッグデータなのか」ってことを考えていきますと、日本は人類未踏の超高齢人口減少社会に入ったと。その上、財政難なんですよ。で、課題としては医療、年金等、社会保障制度を維持しようと。まあその対策のひとつとして、アベノミクスを具体化しながら経済成長しつつ財政の規律を図るということです。

 ビッグデータというバズった言葉で政策論はとてもできませんし、農業だ、なんだと複数分野のビッグデータに均等に金をつけたのでは、ただのばらまきになってしまいます。やはり重点化がポイントです。超高齢社会がネックになっている日本においては、やはり「医療ビッグデータ」だろうと。医療イノベーションを目指さないといけないと思うのです。医療イノベーションが、なにゆえ第一に上げられるのかというと、歳出減の効果があるからです。まあ高齢者のQOL(クオリティオブライフ)の向上、できるだけ現役で健康なまま元気に生活いただいて、最終的にはポックリと逝っていただく。あまり病院に頼らず長患いしない。その方が、介護する現役世代の側からも、また高齢者本人の側からも、それから医療保険等財政を預かる国の側からも、3方向から見てもっともハッピーだろうということであります。

 その一環として、たとえば治療効果を高めるための遺伝子創薬などがありますね。そういった医療介護のあたりで次世代産業を見ていったらどうかというお話が方々から出て来ています。

 一方で歳入増の話もありまして、超高齢社会対応ビジネスは輸出できるんだと。経済成長といいますと、やはり外貨を稼ぐことですよ。欧米中国が次々と高齢社会に入ってきますからね。市場は海外に拡大していきます。ということになりますと、各国に先んじて人類未踏の超高齢社会に踏みいった日本の先行する経験が生きてくる。たとえば介護ロボットや介護ベッド・風呂・トイレなどや在宅医療サービスなど、超高齢社会を支えるハード、ソフト、サービスの多くは輸出できるし、外貨を稼げるポテンシャルを秘めている。日本の弱点に活路を見出していく、老老介護しながら老人を対象に老人含めて取り組む社会に切り替えていくべきだろうと思います。みな元気でないとね。ボケたりしてはいられません。そう、ボケたりハゲたりといえば・・・、

 高木 隊長いらっしゃいました。

 鈴木 まあそういったあたりで外貨稼いでいく…というところなんですが、ようやく前説が終わりまして司会者が登場しました。7分遅れで。

 山本 やまもとでございます。よろしくお願いいたします。

 鈴木 はじまらなくて(笑)。

 山本 あら、まじで?

 鈴木 ええ。もう、だらだらと放送をはじめております。

 山本 あの、文句は丸ノ内線にぜひお願いしたい。

 高木 さて。

 鈴木 ここからスタートでよろしくお願いします。

ゲストはどうなった?

 山本 ということで第2回プライバシーフリークカフェということで、お集まりいただきましてありがとうございます。今回司会を務めさせていただきます山本でございます。遅れまして申し訳ございませんでした。

 今日は今日で、大きめのニュースが飛び込んできました。アメリカのフェースブックで70万人のユーザーに許可なくタイムラインを操作して、ユーザーの利用心情の変化に関する調査をしていたことを発表して大問題になりました。アメリカでもこのあたりが議論になってフェースブックに批判が殺到するんだ、といったところの所見をいただきつつですね、本題に入っていきたいと思っているんですけど、いかがでしょうか。

 高木 みなさんご存じですかね?フェースブックが、研究で、タイムラインに出てくる友達の発言のうち、ポジティブな発言のエントリを出さなくしたら、見てる側でネガティブな発言が増えたというような実験でしたっけ?

 山本 そうですね。フェースブックが利用者を無断でモルモットにしていいのかみたいな話が出ました。比較的プライバシー関連ではアメリカモデルを参考にせよと、強弁しておられた事業者のみなさまも、あのアメリカ人の反応にびっくりというようなところでありまして。

 単純な話、何が正解かっていうのはないんですけども、プライバシー、要はユーザーさんの断りなしに何かを行った場合にどういうリアクションがあるのかっていうのは、比較的自由で容認派という風に言われていたはずのアメリカですらこういう議論になっているというのは、ひとつエポックメイキングなとこなのかな、と強く思います。

 加えてEU委員会でもちょっとその新しい動きがあって、いわゆるそのレガシーなプライバシーポリシーといいますか、強すぎる個人情報の取り扱いについてはもう少し議論の余地があるのではないかという話をしている一方で、フランスではアマゾンに対してですね、反アマゾン法みたいなものが出まして、業者とユーザー、行政の緊張関係というのが一層先鋭化していっているという印象があります。

 高木 はい。そのフェースブックの実験のことについていえば、直接はプライバシーの問題ではないかなと。自分のところのフェースブックの情報を一部出さなくしただけという意味では。だけども、あれは心理学実験の研究倫理の問題と、メディアの信頼性の問題ではないでしょうか。フェースブックがメディアなのかという話はあるかもしれませんが、たとえばグーグルが検索結果を調整して世間がどう反応したかなんてやったら、そりゃもう信頼を失うこと確実ですよね。

 山本 そうですよねえ。

 高木 フェースブックをメディアとみたときに、もうフェースブックにそういう信頼はないよっていうことになる。それは自殺行為ですねという面と、いや、嫌だったらつかわなければいいとも言える。

 山本 そのへん微妙ですよね。その嫌だったら使うな論は使われがちですが、本来は禁忌じゃないですか。地雷といいますか、それだったら何やってもいいのかって議論になってヒートアップしやすい。どっかの会社にもそんなこと言ってる役員の方いらっしゃったかと思うんですけども。ちょっとゲストでお呼びしようと思ったその方がですね。

 鈴木 ああそうですね、その話題、忘れてましたー。

 山本 ええ、さまざまな交渉でいろいろおねがいをしてきたわけなんですけど、残念ながらご出演いただけなかったということでですね、今日はそのあたりの話も踏まえてですね、いろいろお話していきたいところなんですけども…。

 高木 ゲスト。

 山本 ゲスト。

 鈴木 名付け親。

 山本 名付け親。プライバシーフリークという、我々にもっともふさわしい名前をですね、

 鈴木 つけていただいて。

 山本 つけていただいて、非常にその、この界隈ではエポックメイカーとしても、大変な、なんていうんでしょう、エンターテイナーぶりをですね、発揮していただいているB先生がですね…。

 高木 別所さん?

 山本 いやいやいやいや(笑)。

 鈴木 B先生。

 山本 そこまでは申し上げませんですよ(笑)。

 高木 ずいぶん、あの、粘り強く出演交渉をしていただいていたんですよね?

 山本 はい。結局、がんばってですね、上から下までいろいろお話したところ、非常にこう、セクシーな話になりました。

 鈴木 大変ですねえ。

 山本 ええ。なんか、鍋の中の具のような気分でですね…

 高木 でも最初の頃は出てもらえそうな感じでもあったんですよね?

 山本 そうですね比較的その、プライバシーフリークと言っておきながらですね、さまざまな議論があるのはいいことだみたいな話になっておりました。もともと様々なところで非常にお親しくさせていただいているのでですね、普通に顔見知り関係の延長線上で出てきていただけるのかなと思っていたのですけれども。

 ご出演にご了承いただけるのかと思いきや、ちょっと大綱の話が煮詰まってくるあたりから、非常に急旋回をされてですね、B先生ご本人のみならずですね、法人としても大変、ある日突然強硬派になってしまうという、不思議な状況でありました。中で何が起きたのかという点については、一通りお話が落ち着きましてから、あとでぜひ、詳しく伺いたいところでございます。

 高木 そうですねえ。

 鈴木 大綱がかなり利活用に押し切られちゃいましたよね。まあEUの十分性の要件に必ずしも合致せよとは言ってなかったんですけども、越境データの解決に向けた交渉テーブルにつけるくらいは実現したいと願っておりましたが、かなり後退してしまいました。

 山本 そうですね、はい。

 鈴木 大丈夫かなと。これ。

 山本 このあたり、一番最初のところで、大綱に対する評価のところをきちんとお話させていただきたいと思っております。そこにまつわる、プライバシー法制関連のみなさんの動きなんかも適宜お話をつまんでいきたいなという風に思ってますけども。

 高木 そうですね。こちらに新聞を用意しときました。このように、社説がいくつか出たりしてますが、まあ、こんな感じです。

 大綱はパーソナルデータについて、氏名や住所の削除など個人を特定できないように加工すれば、本人の同意がなくとも第三者へ提供したり、取得時の目的以外に利用したりできるとした。

産経新聞 社説(2014/6/29)より抜粋

 高木 この、一番新しいのは、産経の6月29日の社説ですが、このへんを読むとですね、パーソナルデータについて、「氏名や住所の削除など、個人を特定できないように加工すれば、本人の同意がなくても第三者へ提供したり取得時の目的以外に利用したりできるとした」と書いてあって、アレレ?と。氏名や住所削除すれば、同意なく、利用目的外であっても提供してもよいとなったと書いてあるんですが、まあ、こういう報道が多いんですよね。社説だけじゃなく、最初の日の翌朝の記事とか。でもこれ、間違いですよね、先生?

 鈴木 間違いですね。まあ、高木さんが第1回前編でお話しされたところですね。「特定個人の識別情報」を氏名住所等の基本4情報というか、本人確認情報だけだと思っている人が意外と多いようだなと。そこだけが個人情報でそこにぶら下がる履歴情報のようなものは個人情報に含まれないと誤解している人がいるんですね。そういう理解を前提にすると、氏名等を除けばもう残りは個人情報ではないということになる。そういう誤解が予想以上に蔓延していました。

 高木 だから新聞記者も、そういう意味かなって思ってしまいますよねえ。NHKのNEWS WEBでもそういう誤解をしているような放送になっていました。で、その新聞記事ですけどね、こういう典型的なパターンの記事と、それとは別に、解説の記事はよく書かれていて、日経新聞のこの解説は非常によく書かれていましたし、読売の6月27日の解説もとてもよく書かれていると。そういう方々は我々のところにも取材に来てくださる…。

 鈴木 パーソナルデータに関する検討会に、毎回傍聴にいらっしゃっている方々ですね。

 高木 あちこち聞いて、ちゃんと取材されるとこういう記事になるけれども…。

 山本 まあフォローアップがなかなか追いつかないと、産経さんみたいなことになってしまうこともある、と。

 高木 まあ、かいつまんで見て、大綱だけ見て、表だけ読んで書くとああいうことになっちゃう。裏が見えてない。

 山本 まあそういうことなんでしょうね。あの、やっぱりこれからその日本の成長戦略の中でなぜかビッグデータというのが入っておりました。そのビッグデータを利活用するための、いちばん重要な「個人に関する情報」の定義が行き届いてないっていうのは、一連の議論を見ていても強く感じるところでした。例えば高木さんが新聞記者さんなどにこの問題を最初ご説明されたとき、やっぱり誤解ってあったんですか?

 高木 よく勉強されて来られますし、ずっと継続して取材にいらしていたので、そういった基礎的なところの誤解はなかったですよ。

 山本 なるほどなるほどなるほど…。ちょっとこう、全体の論調として今回あまり世論という形でプライバシーに関する制度変更について喚起する動きもなくてですね。ちょっと朝の某テレビ番組にコメンテーターとして出演したらたまたまTポイントカードの話が出てですね。

 高木 観ました、それ。

 山本 ええ。ええ。Tポイントなどのポイントカードは便利ですね、こういうお得な使い方もあるんです、という前向きな放送内容になっておりましたので、利用者側の「個人に関する情報」の扱われ方はヤバいですよねえみたいな話をしたら、番組が終わった後でやんわりとネット事業者方面から「そういう不安を煽るのはやめてください」ってあとから言われたりしました(笑)。

 鈴木 ほぉ。

 高木 あれは仕込みだったんじゃないんですか?(笑)

 山本 あれは仕込みではまったくなくてですね、たまたま居合わせた、偶然の産物でありました。実に見事なタイミングでいたなあ、というのがあるんですけども。話が出来る15秒か20秒くらいでポイントカードの問題点を抉り出して注意喚起するっていう大技をやったんですけど(笑)。

 鈴木 それはそれは(笑)。

 山本 とりあえず議論の本題としては、いわゆる、なかなかその、個人情報の中身も、新聞記者の方でさえ誤解するような、ある意味わかりやすい議論っていうのがなかなか国民に提示されなかったのかなと。なので結果として、その国民の情報自体が社会の資産なんだってところにまでなかなかお話が至らずに、個人情報保護法の大綱のところまでも今なお誤解が出てしまうような話になってしまっているので、そこは我々としても、今後の活躍をより大きく広げていく必要があるのかなと思うわけですよ。

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大綱はどうなった?

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この記事の著者

プライバシーフリークの会(プライバシーフリークノカイ)

山本一郎
イレギュラーズアンドパートナーズ株式会社 代表取締役 高木浩光
独立行政法人産業技術総合研究所 主任研究員 鈴木正朝
新潟大学 法学部 教授

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