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週刊DBオンライン 谷川耕一

マイクロソフトの成功がパートナーとともにあらんことを


 発表会やイベントの取材に出かけ苦労するのが写真撮影。会場が暗いとシャッタースピードが上げられずぶれた写真になりやすい。とはいえ、光の具合は撮影テクニックや機材でなんとかできる。いかんともしがたいのが被写体の表情だ。原稿を読むタイプの人だと顔が俯き加減でなかなか目線のある写真が撮れない。さらに緊張し表情が硬いのもシャッターチャンスが難しい。トラブルの釈明なら神妙な表情でもいいが、多くの発表は新製品や今後の戦略など前向きなもの。できれば力強く語っている瞬間やにこやかにアピールしている様子を撮りたい。なんなら口角泡を飛ばすくらいの表情がベストだ。

パートナービジネスの話をするマイクロソフト樋口社長の表情は明るい

 個人的な感想になるが、撮影者泣かせの登壇者の1人が日本マイクロソフト 代表執行役 社長の樋口泰行氏。樋口氏は極めて好調な自社ビジネスの成績を伝える際も、かなり硬い表情なことが多い。まさに彼のまじめさが写真に現れるのだ。なんとか少し笑顔を見せた瞬間、身振りを交え語っている瞬間を狙うが、なかなかうまくいかない。

パートナービジネスについて、生き生きと語る樋口社長
パートナービジネスについて
生き生きと語る樋口社長

 そんな樋口氏がキーノート講演を行ったイベント「マイクロソフト ジャパン パートナー コンファレンス 2014」が先週開催された。このイベントは名前の通りマイクロソフトのパートナーに向けたもの。じつは樋口氏、こういったパートナー向けイベントなどでは、じつに生き生きした表情で話をする。

 昨年度、マイクロソフトの売り上げは過去最高。この成績はパートナーと供に達成したと樋口氏。「Windows XPは世界中で日本がもっとも利用率が高かったが、今はもっともXPへの乗り換えが進んだ国が日本になりました」とのこと。このXPへの乗り換えの動きは、2014年1月から3月の国内GDPの伸びにも貢献したと政府関係者から言われるほどだったとか。

 もう1つ注力しているのがタブレット、市場では出遅れたけれどもシェアも伸びてきた。「もともとマイクロソフトは全部後出しじゃんけん」と樋口氏。タブレットだけでなくWindowsのようなユーザーインターフェイスもExcelやWordなども全部後追いで市場に出した。他社との違いは後出しでもパートナー供にビジネスとして我慢強くやってきたこと。それでこれまでは成功してきた。このマイクロソフトの諦めない力でタブレットもキャッチアップ中だと言う。

 とにかく、日本マイクロソフトのビジネスがかなり好調なのは間違いない。その証拠にワールドワイドのマイクロソフトの中で、3年連続の年間最優秀国に選ばれている。このような結果を出すことで「日本ワールドワイドにおける発言権も強くなります」と樋口氏。

 CEOも交代しマイクロソフトは変化の真っ最中だ。新しいマイクロソフトになるにはマイクロソフトの文化を変革する必要がある。そのために重要なのがチャレンジャー主義。タブレットもクラウドも伸びているとは言えシェアはまだ小さい。これを拡大するには今までの圧倒的な強さを持っていたWindowsやOfficeの戦略ではなく、チャレンジする姿勢が必要ということだ。

 もう1つがお客様第一主義。さらには学ぶ姿勢とチームワークも重視する。そして現実を踏まえた戦略も新たな特長だと樋口氏。iPadでOfficeを使いたいユーザーがいるならば、それにも積極的に対応する。これまではライバルだったセールスフォースやOracleとも、顧客のメリットが享受できるのなら協業する。これらは新しいCEOのもと、新しいマイクロソフトだからこそ実現できた戦略でもある。

 「それがユーザーのメリットになるのなら、マイクロソフトはこれまでのビジネスの根幹を変えてでもやります」(樋口氏)

 マイクロソフトはこれからもどんどん競争力のある製品、サービスを出していくので、それを使ってどんどん提案して欲しいと参加したパートナーに樋口氏は呼びかける。

 「モバイルファースト、クラウドファーストを顧客のこれまでの投資を保護しながら、パートナーと供に提案していきます」(樋口氏)。

 最後まで、「パートナーと供に」が強調された講演は、いつもの記者会見とは異なり笑顔も多くみられ力強い自信にあふれた発言も随所にあった。これは表面的にパートナーが大事だと言うのではなく、パートナーと供に実践してきた結果が今の成功だという意識がしっかりと樋口氏の中にあるからこそだろう。だからこそ、この日の明るい表情が公演中に自然と出たに違いない。

アドビ新社長はアドビシステムズをデジタルマーケティングの会社にする

佐分利ユージン社長
アドビシステムズの新社長
佐分利ユージン氏

 さて、先週のもう1人の社長として取り上げるのは、アドビシステムズの新社長 佐分利ユージン氏だ。7月1日に就任してから2ヶ月、新体制での戦略の説明が行われた。佐分利氏はマイクロソフトに19年間在籍、エンタープライズサーバー、クラウドサービス、モバイルデバイスなどさまざまな領域でゼネラルマネージャーなどのリーダー職を務めた。うち9年間は日本法人に在籍し2006年から2009年はチーフ・マーケティング・オフィサーとして日本のマーケティングおよびオペレーションを統括した人物だ。

 アドビシステムズ自体は創業32年、ご存じクリエイティブソリューションと新たなデジタルマーケティングソリューションの2本立てでビジネスを展開している。佐分利氏はワシントン大学を卒業後、出版社の徳間書店に数年勤め、その後マイクロソフトジャパンに入社。今回アドビシステムズへの転職を決意したきっかけは「マーケッターを対象にした製品があることが1つの理由です」とのこと。

 もう1つのきっかけがソフトウェアのサブスクリプションモデルにいち早く移行した企業であることを挙げた。さらに「面接のプロセスを通じ多くの人に会い、その人に惚れる部分があり転職を決意しました」と人との出会いがあったことも強調した。

 アドビシステムズ自身は、おそらく佐分利氏のマーケティング領域での経験を高く評価したのだろう。それだけ今、アドビシステムズはデジタルマーケティングのソリューションに力を入れている。実際、グローバルでは40億ドルあまりの売り上げの比率はクリエイティブとデジタルマーケティングで6対4の割合にまでなっている。Creative Cloudも順調に成長しているが、年率25%とより大きな成長率を示しているのがデジタルマーケティングだ。ちなみに日本では、クリエイティブの割合はワールドワイドよりかなり大きいのが現状。まずは日本の状況をワールドワイドに近づけるのが佐分利氏の使命となる。

 クリエイティブの領域はすでにアドビシステムズがかなり強い。対等なライバルは存在しないだろう。そういう意味では既存のビジネスを「守る」市場であり、爆発的に成長するものではない。対するデジタルマーケティングの世界はこれから大きな成長が見込まれる市場だ。OracleやIBMなど多くのライバルがしのぎを削っており、成長の可能性も高いが戦略を見誤ればライバルの後塵を拝することに。

 アドビシステムズの強さは圧倒的な強さを持つコンテンツの制作、管理の領域がすでにあり、それに対し計測を行い収益化するデジタルマーケティングを連携させて提供できるところ。「包括的に提供することで他社に対する差別化ができます。それができる唯一の企業です」と言う。

 アドビシステムズ自身も、このクリエイティブとデジタルマーケティングを連携させる新しいマーケティングを実践している。「月刻みではなく秒刻みでコンテンツの最適化することで、収益化につなげています」と佐分利氏。グローバルで戦うならばこういった新しいマーケティングは必須であり、経験と勘によるマーケティングではなく「左脳で判断するマーケティング」が重要になると指摘する。

 この新しいデジタルマーケティングのビジネスを活性化していくために重要なのがパートナーだと、佐分利氏もパートナー戦略の重要性を強調する。電通イーマーケティングワンやサイバーエージェントなどデジタルマーケティングに長けたパートナーも増やしており、これにコンサル系、SI系も加えパートナー拡大戦略をとる。

 そして他社に対しアドビシステムズがもう1つ有利なのが「顧客との接点は、一部IT部門もあるけれどそのほとんどがマーケティングだということ」(佐分利氏)。他のベンダーが如何にして企業のマーケティング部門にアプローチするかで頭を悩ませている中、すでにその部分を持っているアドバンテージがアドビシステムズにはあるのだ。

 クリエイティブからデジタルマーケティングへ、市場イメージの転換を日本において佐分利氏は早期に実現できるだろうか。この日佐分利氏は、記者からCreative Cloudのサービス品質に対する厳しい質問などもあったが、終始にこやかに会見を終えた。その様子からはデジタルマーケティングへのシフトに自信ありという印象を受けた次第。アドビシステムズのデジタルマーケティング・ソリューションベンダーとしての動向に今後も注目したい。

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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