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サイボウズが語る、「クラウドをやってみてわかったこと」

 クラウドの本命はいま注目を集めがちなIaaSではなくPaaSやSaaSだという話題は、何度か記事でも触れている。IaaSがダメというわけではないないが、本来ユーザーが欲しいのはIaaSの上で動いているソフトウェアでありサービスだ。それらをオンデマンドに、欲しいときに欲しい分だけ使える環境が欲しい。それが柔軟にできることこそがクラウド本来のメリットなので、本命はPaaSやSaaSだろうと思うのだ。

いけると思っているからアクセルを踏んでいる

 国産クラウドベンダーとして、そのPaaSに力を入れているのがサイボウズだ。サイボウズは2011年11月にcybozu.comのクラウドサービスを開始して以来、売り上げは右肩上がりで推移している。にもかかわらず2014年度の業績予測は赤字だと表明。17年間ずっと黒字だった業績を、赤字にしてまでも「いまは投資する」と言うのはサイボウズ株式会社 代表取締役社長の青野慶久氏だ。

 青野慶久氏
青野慶久氏

 「いけると思っているからアクセルを踏んでいます。その結果が赤字か黒字化は関係ないと思っています」(青野氏)

 cybozu.com開始以前は横ばい傾向だった売り上げは、クラウドサービス移行で急激な右肩上がりに。2014年9月時点でcybozu.comの契約数は8,000社を突破、PaaSサービスであるkintoneも1,700社を超えている。kintoneはcybozu.comよりも遅れて提供を開始し、サービスインから2年10ヶ月が経過したところだ。

 サイボウズでは、オンプレミスのパッケージビジネスから新たにクラウドでサービスを提供するようになり分かったことがある。それはクラウドではたとえ初年度の契約数が小さくても2年目、3年目と徐々に契約数が増えるということ。これが見えてくれば「もっと投資できることがわかった」と青野氏は言う。

 契約が順調に増えている背景には、kintoneを出した当初はシンプルなPaaSを直販モデルで売るものだったが、現状ではカスタマイズ性も向上しパートナーから売るモデルが拡大していることがある。そして顧客の拡大はもちろん、kintoneを売ってくれるパートナーを拡大していく上でも重視しているのが「信頼性」だという。

 kintoneではこれまでに177件の機能追加をしており、いまではAPIも搭載されJavaScriptでフロントエンドのカスタマイズも可能になった。カスタマイズしたものはプラグイン化し、クラウド上でパッケージアプリケーションのように提供できるようにもなった。現時点でプラグイン化の仕様は公開されていないのでサイボウズ製プラグインしか提供されていないが、2015年1月からはサードパーティにも仕様を公開しプラグイン化したアプリケーション提供ができるようにする。

 また、グループウェアのGaroonとも連携しGaroonのスケジュール情報をkintoneの案件情報などと連携させて共有できるようにもした。このあたりの拡張も、SaaSとPaaSの相乗効果による強化戦略と捉えられる。

 さらにkintoneには、連続稼働率99.9979%と高い実績がある。運用面でもがんばっている。脆弱性への取り組みにも注力しており、脆弱性報告に対する報奨金制度を作り外部の協力も得ながら積極的に取り組んでいる。ちなみに報奨金制度ではこれまでにcybozu.comで認定済み脆弱性が83件、うちkintoneでは1件の脆弱性が見つかり対策を施した実績がある。今後も、報奨金はまったく上限なしで予算に関係なく出していくとのことだ。

 信頼性を高めることなどで目指しているのが、パートナーとのエコシステムの強化だ。クラウドサービスを代理店的に販売してもらうだけでなく、SIやISVのパートナーとして一緒になって市場を活性化する。実際、kintoneの上で動くアプリケーションは24社から47まで拡大した。

 もう1つこのエコシステム拡大に寄与するのが、開発者に向けたサポート体制だろう。2014年4月にはdeveloper networkという開発者向けサイトをオープンし、そこでは活発な情報のやりとりがなされている。ここでは、37のAPIドキュメント、20のサンプルプログラムも公開されるに至った。

 「kintoneに流れが来ています。もともとの直販からいまは45%がパートナー経由でSIが売れる製品に変わってきました。月間のトライアル申し込みは1,200件、月に100社以上の契約、月間1,000件の問い合わせがあります。ネットでもkintoneの検索回数が増えています。直近では『kintone』と『オンプレミス』を検索する人が同じくらいです」(青野氏)

 kintoneのビジネスは、セールスフォース・ドットコムなどと比べると1つ1つの案件規模がかなり小さい。ユーザーにとっては安価なサービスになるが、パートナーにとってはおいしいビジネスになりにくいという弱点でもある。そういった中にあっても、徐々にビジネスのにおいが濃くなってきつつあるのが現状のkintoneだろう。なのでISVやSI企業などのパートナーも急激に関心を示すようになった。

 「kintoneは日本を代表するプラットフォームになります。私もそれを確信しています」と青野氏は言う。とはいえkintoneをすべてのアプリケーションのプラットフォームにしていくつもりはない。あくまでもチームでコラボレーションするためのアプリケーションに特化する存在だと。そういった特性をパートナーも理解し、さらにビジネスのにおいが強くなれば、さらなるパートナーエコシステムの拡大も期待でき、結果kintoneが日本を代表するPaaSになるかもしれない。

次のページ
日本市場に対応するためのきめ細かな対応でクラウドビジネスのエコシステムを活性化する

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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