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週刊DBオンライン 谷川耕一

IBMのクラウド戦略の要にWatsonアリ


 先週は、「IBM Insight2014」というイベントの取材で米国ラスベガスを訪れていた。これ、もともとはIBMのデータベースやBI関連の製品、ソリューションを紹介する「Information On Demand」というイベントだったが、ビッグデータ、クラウドの時代になりそれらを活用してどのような「価値」を提供するかにフォーカスするようになり、イベント名称も「Insight」へと進化している。

Watsonの技術こそがIBMのクラウドサービスの優位性に

 イベントに参加し、この名称変更がじつは重要なメッセージだったなと思った次第。昨年のこのイベントはちょうどSoftLayer買収後だったこともあり、出遅れ気味だったクラウド市場にIBMがいよいよ本格参入するのだという意思表示の場だと感じた。SoftLayerという強力なIaaSを手に入れ、データベースやBI関連の製品もどんどんクラウド対応する。その中の1つにコグニティブ・コンピューティングの「Watson」があったという感じだった。

 今回のInsightでは、そこからさらに一歩進んでクラウドやビッグデータでIBMは何を提供するのかを明確化する場となった。そんなIBMが目的とするのは、まさに「Watson」だった。Watsonを活用することで提供可能となる「Insight」、それを最大化し迅速かつ容易に提供する。ためにクラウドの柔軟なプラットフォームがあり、ビッグデータを容易に扱えるデータベースがあるという形だ。

 つまりは、SoftLayerのようなクラウドインフラを安価にたくさん提供することがIBMの目的ではない。なのでクラウドインフラを安く提供することで鎬を削る競争には参加しない、したくないというのがIBMの本音だと見た。あくまでも、Watsonのような「コグニティブ・コンピューティングで提供できる価値」を提供する、そのために現時点で最適なのがクラウドのプラットフォームなのだ。さらにはInsightを得るためにビッグデータを高速に扱う必要があり、それに最適なのがNetezzaのようなデータベース技術なのだ。

 ところで、ここで言うところのWatsonは、クイズ番組で優勝した自然言語処理に優れた「素のWatson」だけではない。従来のSPSSやCognosといったBIやアナリティクス関連の製品群も含めた広い意味での「Watsonファミリー」と捉えるべきだろう。IBMではこれら既存のBIやアナリティクス技術のところにも、Watsonで培ってきたコグニティブな技術をうまく融合して新たな使いやすいサービスとして提供する。

 それが、今回発表されたクラウド上のデータウェアハウス、アナリティックスサービスの「dashDB」や、Watsonの認知テクノロジーとアナリティクス技術の両方を利用し一見関係のなさそうな関係性を瞬時に見つけて犯罪パターン検知などに活用する「IBM i2 Enterprise Insights Analysis」といった新サービスだ。

 また一方で、素のWatson技術の解放にもIBMは積極的だ。まずはIBM自身が医療、金融、料理といった領域の知識をWatsonに学習させ新たなサービスとして提供する。ガン治療をサポートする「Watson Oncology」、個人の資産運用をサポートする「Watson Wealth Management」、料理のサポートをする「Chef Watson」という3つのサービスだ。さらにはWatsonを利用するためのAPIを用意し、さまざまな業界、業態において知識を学習しWatsonを活用できるようにするエコシステムの構築も行っている。

 金融の知識を学習し個人の資産運用をサポートする「Watson Wealth Management」の画面
 金融の知識を学習し個人の資産運用をサポートする「Watson Wealth Management」の画面

顧客にとってもIBMにとっても高い価値を生み出すInsight

 IBMにとっては、このWatson的なところこそが他社サービスや製品に対する大きな優位性になるのだろう。結果的にクラウドで提供するものが多いが、決してクラウドだけに拘っているわけでもない。そこのところは、あえて「Cloudant Local」というオンプレミス版のサービスを提供したことからうかがえる。Cloudantはモバイルアプリケーションを迅速かつ柔軟に開発、運用するクラウドサービスとして定評がある。とはいえ、エンタープライズのビジネスでモバイルアプリケーションを活用するとなると、オンプレミス版が必要になるというのがIBMの判断だ。

 たとえば、顧客のプロフィール情報などをモバイルアプリケーションで活用したい場合には、そのデータはクラウドには置きたくない場合も多々ある。それに対応するためにもオンプレミス版は必要であり、それが既存のクラウドと容易に融合できる環境を提供することがエンタープライズでは必要となるのだ。余談だがこのCloudantのサービスについては、もともと簡単なデータ分析機能を持っていた。それに加えて今回、dashDBが標準で含まれるようになることも発表された。これもまた、モバイルアプリケーションを活用した結果得られる大量のデータを分析して、すぐになんらかのInsightを得られるようにするためものと捉えることができるだろう。

 今回のイベントを経験し、言い過ぎかもしれないが今後すべてのIBMのシナリオが、Watsonファミリーを活用し、それによって「Insight」を顧客に提供するというストーリーで組み立てられているのではと思ってしまった。クラウドを使ったオペレーショナルの効率化という世界も、IBMとして無視するわけではないだろう。けれども、高い価値を提供しそれ相応の対価を得るビジネスのターゲットはWatsonをベースにしたところ置いているのではと思うところだ。

 最後に、残念ながら「素のWatsonのサービス」は、現時点では日本語に対応していない。しかしながら、今回のイベントの中で英語、スペイン語に続き、日本語、ポルトガル語の対応を開始する旨の発言が何度か見られた。日本語独自のあいまいな表現などもあり、Watsonが日本語の知識を学習し賢くなるまでには手間と時間もかかるかもしれないが、Watsonの能力を日本でも本格的に利用できる日もぐっと近づいてきたようだ。

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この記事の著者

谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...

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