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ソリューションありきは本末転倒!「店まで来ている客、棚まで来ている客」を購買に結びつけるデータ活用例

 店舗におけるテクノロジの活用は、顧客の状況理解を詳細に行うためには有用ですが、「理解のための理解」ではなく、「施策につながる理解」でなければなりません。今回、エイジスやクックパッド、モバイル空間統計などの事例から、効果につながる施策のあり方について紹介します。

棚自体による導線設計で、店内の移動を促す―エイジスの事例

 店舗自体の訴求力を高めるために、スマホと連動させようとか、ビーコン(店内追跡)を使おうという点に関心がいきがちですが、ソリューションありきとなっては本末転倒です。そうならないためにも、まずITによらずに店舗の高度化を進める事業者の施策を紹介します。

 エイジスという企業による店舗内の導線設計に関する事例です。 エイジスはIT業界とはあまり接点がありませんが、流通業界の方ではよく知られた企業です。商品の補充や棚卸しなどの代行サービスを、全国約15万店を対象に提供しています。

 同社は、その本業に付随する業務として、店舗内の導線についての分析・設計を行っています。同社の取締役 新規事業開発室長、近江元氏は次のように言います。

 「手に取れる商材、現物による訴求力は強い。商品をどのように店舗内に配置するかによって、お客様の店内移動を促すことができます。ある商品が売れていないとき、その原因は一様ではありません。店舗まで来ているお客様2,000人がみなその商品の棚に来ていれば商品の魅力不足であることがわかりますが、20人しか棚の前に来ていないのであれば、商品の魅力不足かどうかはわからない。導線の問題を解決することが必要です」

 あわせて、近江氏は商品が陳列されている棚自体が、せっかく棚の前まで来てくれた顧客を拒絶する場合もある、といいます。

「あるドラッグストアにおいて、消臭剤の棚まで来たお客様が長時間棚の前を行ったり来たりした結果、最終的にはなにも買わずに帰ってしまった。棚を見ると、トイレ用、リビング用、ペット用など様々な消臭剤が分類されずに置かれていた。目的とする消臭剤に辿りつけなかったのだろう」

 では、同社はこの導線データをどのように収集しているのでしょうか。同社ではカメラでもセンサでもなく、来店した顧客を調査スタッフが追う形で調査します。カメラ映像やセンサを活用した導線分析を分析する事業者もある中で、なぜ調査員による分析なのでしょうか。理由は3つです。原因の特定、コスト、施策との連携です。

 第1の理由である「原因の特定」は、先の消臭剤のケースが相当します。調査員による方法であれば、その場で合理的な推察にもとづいてどのような点を確認すればよいのかということが分かります。マグロが手には取られたのに棚に戻されたとき、みてみるとドリップがひどかった、といったケースもあったといいます。

 第2の理由である「コスト」には違和感があります。人件費の方が高くつくのではないでしょうか。しかし「小さな店舗ならばいざしらず、大規模ホームセンタを対象とするときなどはかえってこのような手法のほうが安くつく」(同社、新規事業開発室シニアマネジャー米山英志氏)といいます。カメラを設置すると数百万円の見積となるようなケースでも、調査員方式であると1回数十万円で実施可能な場合もあるそうです。ただし、高頻度・全数で調査する必要がなく、たかだか、「代表的な数店舗、平日と休日について、年に1度程度分析すれば十分」(同氏)という背景があるためです。

 これは第3の理由である「施策との連携」と密に関連します。全店舗、全顧客に対して、全営業日調査したとしても、そのようなデータはいまのところ施策に活かせないからです。

 施策としての店舗内の棚の最適化、陳列の最適化を行えるチャンスはそれほど高頻度ではありません。ECサイトならばトップページの品揃えを時々刻々変更することは容易ですが、陳列棚を毎日並び替えるわけには行きません。全数に対して、高頻度でデータを収集しなければできない施策があるならば、それはそれで有用ですが、そうでないならば頻度を上げても意味が無いので、設備ではなく人による施策で十分安い、ということです。

 なお、導線設計の最適化は、万引き対策にも有効だといいます。米山氏は導線設計による万引きの抑制について次のように言います。

 「万引きされた商品のパッケージは店内で捨てられることが多い。その包装が捨てられた場所は店内の死角。我々は包装が捨てられた場所を記録し、死角を解消するような施策に取り組んでいる」。死角に防犯カメラでも設置するのかな、というのが常識的な考え方ですが、同氏は「導線により死角をなくす」提案をします。「死角というのは、人の目がないことが問題。そこに顧客や従業員の往来をつくれば、万引きを減らすことができる」(米山氏)という考え方です。まさに理解と施策を一体的に提供する考え方です。 このようにテクノロジによらずとも店内の導線を理解し、それを収益向上や万引き抑止といった施策に活かしている事例があります。

次のページ
データにもとづき、売り場をつくる―クックパッドの事例

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この記事の著者

鈴木 良介(スズキ リョウスケ)

株式会社野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 主任コンサルタント2004年、株式会社野村総合研究所入社。以来、情報・通信業界に係る市場調査、コンサルティング、政策立案支援に従事。近年では、クラウドおよびビッグデータの効率的かつ安全な活用を検討している。近著に『 ビッグデータビジネスの時代』...

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