攻撃は高度化しつつも、本質的には変わっていない
IBM X-ForceはIBMが抱えるセキュリティ研究開発機関。もとは2006年にIBMが買収した米国のセキュリティ専門会社ISS(インターネット・セキュリティ・システムズ)のセキュリティ研究部門であり、多くの脆弱性を発見してきた実績のある部隊だ。民間のセキュリティ研究開発機関としては世界でも屈指の存在となる。
今でも多くのセキュリティ専門家を抱え、脆弱性に関する情報を収集、研究し、リアルタイムに監視している。1日あたり200億件(毎秒約23万件)以上のデータをリアルタイムで相関分析するなど、IBMの技術力を生かした高い分析能力を持つ。保有するセキュリティ関連の特許は3000件超。分析結果はIBMのセキュリティ製品やサービスと連携を図るなど、IBMのセキュリティフレームワークを支える重要な研究機関となっている。
今回の発表に先立ち、IBMは4月16日から「IBM X-Force Exchange」というサイトをオープンした。IBM X-Forceが日々収集、分析しているサイバー脅威に関する情報を開示するサイトだ。サイトを開くと、直近の脅威のアクティビティ(脅威の分類、IPアドレス、国名)が世界地図上に刻々と表示される。
IBM X-Forceでは定期的にセキュリティ脅威レポートをサイトで公開しており、今回発表されたレポートは2014年のセキュリティ動向調査をまとめたものとなる。日本IBM ソフトウェア事業 セキュリティーシステムズ事業部 技術部長 矢崎誠二氏が解説した。同氏は「過去3年間でセキュリティ侵害状況は激変しています」と言う。
近年では外部からの脅威が増加し、多様化しているとのこと。特に情報漏えいの被害が急増している。Eメール、クレジットカード番号、パスワードなど個人情報(PII)の漏えいは2013年に8億件で「空前の規模」となった。2014年はさらに増加し、前年比25%となる10億件にも膨らんだ。近年立て続けに起きている小売り業界(POS端末)や医療保険会社における大規模な情報漏えいが影響している。
2014年に攻撃を受けた業種別で見ると最も多いのは「コンピュータ・サービス」が28.7%。これは主にコンテンツ管理システム(CMS)を対象にしたものにあたる。2014年は有名なCMSプラットフォームのいくつかにおいて、コアプラットフォームと普及しているプラグインに脆弱性が見つかったため攻撃が増えた。次は「小売」の13%。近年小売のPOS端末を狙うマルウェアが急増し、被害が増えていることがこの数字に表れている。そして3位はこれまで上位だった「政府機関」の10.7%。
これほどまでに漏えいが増えている背景について矢崎氏は「攻撃は高度化しつつも、(攻撃対象の傾向は)本質的には変わっていません」と述べる。パスワード管理がずさんであるなどセキュリティリテラシーの欠如があればそこは狙われるし、システムの欠陥が発見されるとそこが狙われるなど、脆弱性を放置していれば当然狙われてしまうことになる。常に脆弱性に注意を払い、しかるべき対策を怠ってはならないということだ。