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アンコンフォータブル・ゾーンで戦えるか、新しいITに求められるバリューベース営業とは?

edited by DB Online   2015/09/14 06:00

 IT業界に求められる人材が変わりつつある。たとえば、SIerによるシステム開発という日本独自のビジネスモデルの先行きが怪しくなり、顧客の要求仕様に基づいてプログラミングを駆使してシステム構築するのは古くさいものになってきた。パッケージ製品を活用し場合によってはSaaSも組み合わせて「開発せずに」仕組みを作り上げる。あるいはDevOpsと言われるように、明確な納品物や納期を定めずにシステムを運用しながら継続的に開発を続ける世界も増えている。

御用聞きから、提案型営業へ

 旧来のSIプロジェクトにもいいところはあった。開発期間も長く規模も大きいので、プロジェクトの中で若手エンジニアを育てる余裕があった。ところが今は、短期で少人数プロジェクトがほとんど。その中に戦力とならない若手を紛れ込ませることはできない。

 IT業界の営業スタイルも変わった。昔はどちらかと言えば「御用聞き営業」で、大きなハードウェアが主役。それに合わせ、顧客からの要望に応じエンジニアを集め開発案件を受注する。そんな体制を反省する動きもあり、以前から「提案型営業」なんて言葉も聞かれる。しかしながら、営業担当者が顧客のビジネス領域まで踏み込んで課題解決を提案することはほとんどなかっただろう。

 それが今では顧客のビジネスの課題を見極め、ITでそれをどう解決し新たな価値を生めばいいかの提案を求められる。そのためには各業種、業態の動向を把握する必要があり、最新IT技術でどんなことが実現できるかも分かっていなければならない。さらには海外など先行事例の話も必要だ。

 もちろんこれらすべてが、一営業担当にだけ求められるわけではない。適宜チーム体制を組み進めることになるが、少なくともこの新しいやり方を理解し顧客と対等に会話ができるスキルが新しいITの営業担当には求められている。

新人の時からバリューベース営業を育成するSAPアカデミー

 そんな新しい時代の提案型営業の育成に力を入れているのがSAPだ。SAPはもともとはERPアプリケーションの会社であり、提案型のイメージがある。とはいえアプリケーションパッケージを売る場合は、比較的パターン化した提案で進められたはずだ。

 たとえば会計や人事などの課題は業種、業態が違ってもそれほど大きく異なるものではない。顧客の話を聞き、最終的には「SAPのこのアプリケーションを導入すれば効率化できますよ」と落とし込めただろう。そのための成功シナリオは、いくつかのパターンを持っていたはずだ。

 それが世の中はクラウド、モバイル、IoTの時代となり、ビッグデータ分析もできなければならない。幸いにしてSAPはHANAを手に入れた。これで「ビジネスプラットフォームの会社になりました」と言うのは、Global Vice PresidentでSAPアカデミーの校長を務めているレー・キリアジズ氏だ。

 ビジネスプラットフォームとなったことで特定業務の効率化の提案ではなく、バリューベースのビジネスの進め方ができるようになったとのこと。それに対応できる人材を育てるのが、SAPアカデミーの役割なのだ。

キリアジズ校長
キリアジズ校長

 若い営業担当者は、特定のソリューションに集中してしまう傾向がある。「どうしても自社製品に基づいて狭い視野になってしまいます。ものを売るのではなく、バリューを語る必要があります」とキリアジズ氏。SAPでは、ものを売るための従来型営業スタイルはトランザクショナルなものだったと言う。

 それが今ではバリューベースに変わった。トランザクショナルな営業で必要なのは戦術だがバリューベースでは戦略を語れなければならない。そしてトランザクショナルではすべての顧客が同じ課題に直面していたが、バリューベースでは顧客ごとに異なる課題があると認識し、そこから新たな競争優位性を見いだせなければならない。さらに重要なのが、ビジネスマーケットのローカルからグローバルへの変化も大きい。

 この違いを理解するために、SAPアカデミーではバリューベース営業を育てていると言う。

 「顧客固有の価値に刺さらなければなりません。そのためにSAPアカデミーでは、ERPがどういうものかを教えているわけではありません。どうやって顧客価値を生み出していけばいいか、顧客に寄り添うための方法を学ぶ場となっています」(キリアジズ氏)

 ERPアプリケーションを導入することで解決する課題もまだたくさんある。

「デジタルビジネスの提案ができなければダメです。市場の変化が激しいので、それができないと顧客のビジネスは一晩のうちにダメになってしまうかもしれません。バリューベース営業は、新たに価値を生むシナリオが提案できなければなりません」(キリアジズ氏)

 SAPのバリューベース営業を育てる研修は、即戦力になる中堅の営業担当が対象ではない。新卒の教育研修で徹底しているのが、今のSAPだという。SAPには世界中のバリューベース提案のナレッジ蓄積があり、世界中の顧客に対応してきた経験がある。それを共有する場がSAPアカデミーだ。

 この研修は勉強する場としてだけではなく、実際に各国のSAP社員とのネットワークを作る場にもなっている。多くの外資系企業はもちろんグローバル対応しているが、だからと言って日常的に世界中の社員と一緒にビジネスをしているわけではない。日本法人の仕事の多くは、日本国内に終始するのが普通だ。

 ところが時代の変化をいち早く掴むには、国境を越えビジネスの話ができなければならない。ヨーロッパに先進事例があれば、それをいち早く理解してローカルの顧客に紹介できなければならない。そのために、その国の担当者が誰かを問い合わせてメールで質問を投げかけるのではなく、研修で一緒に学んだ仲間にこの案件の担当を紹介してとチャットメッセージでも送れば、すぐに情報を得ることができるだろう。

 「顧客は今、真のグローバルネットワークを求めています。SAPは、リアルグローバルカンパニーになりつつあります」(キリアジズ氏)

 このSAPのシフトは、ここ最近になって急に訪れたものではない。HANAにより加速した面はあるがHANAによるビジネスプラットフォームがあり、ERPとミドルウェアもある。それらすべてを活用できる人材を育てなければならないのだ。

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著者プロフィール

  • 谷川 耕一(タニカワ コウイチ)

    EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーター かつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリストとして、クラウド、データベース、ビッグデータ活用などをキーワードに、エンタープライズIT関連の取材、執筆を行っている。

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