IBMではテレワークはごく当たり前の働き方
研究所の仕事では、米国やヨーロッパ、アジア地域など各国にいる研究員とリモートで電話会議を行うのが当たり前だ。当然ながら時差の問題があり、米国の午前中に会議がセットされれば、日本は夜中に対応することも多い。
「会議の準備に当てたい時間が、ちょうど通勤時間にかぶることも多いです。であれば、海外とのリモート会議の日は、自宅で活動したほうが作業時間を確保しやすく効率的。朝一番でリモート会議があるようなときも、会議に出てそれから出社となるとなんだか仕事が途切れて効率が上がりません。間に挟まる通勤時間が、かなりもったいないんです」(榎さん)
研究所は、実力を発揮できれば、9時から5時という型にはまった就業時間に必ずしもこだわる職場ではなかった。なので、榎さんは自然とテレワークを活用するようになった。これまでも、子育てや介護といった、さまざまな理由で柔軟な働き方をしている人はいた。テレワークの活用はごく当たり前のことだった。
もっとも、榎さんが就職先としてIBMの研究職を選んだ際には、テレワーク制度が充実していることを特に意識していたわけではない。IBMでは1990年後半というかなり早い時期から、PCさえあれば出社するのと同じように仕事ができる環境の整備が行われてきた。そんな中、1998年からは正式に在宅勤務制度も発足する。当初は介護や育児など在宅勤務を行う理由が必要だった。しかし現在は、仕事の効率性を考慮し、特別な理由がなくてもをテレワークを活用できるようになっているのだ。
柔軟なルールでテレワークをやりやすくする
柔軟にテレワークが使えるとはいえ、周りがそれを理解してくれる雰囲気がなければなかなか採用できるものではない。IBMではテレワークでの作業を管理して制限するのではなく、部門やチーム内でテレワークを活用するためのルール、ポリシーのようなものを設定している。
「在宅勤務か出張かなどは、きちんと部門内で共有しています。今はそのためにクラウド・メールツールのIBM Verseを使っています。Verseでスケジュールと場所情報をリアルタイムに共有するのがテレワークを活用する際の1つのルールになっています」(榎さん)
テレワークの有無にかかわらず、仕事のアウトプットは基本的には個人の裁量に任されている面もある。つまり細かく上司が作業管理をするのではない。もちろん、業務の進捗は日常的に進捗会議で確認する。一方で勤務中のやりとりは、会議よりは社内チャットのシステムを使うことが多い。チャットシステムでも、自分のステータスやロケーションがセットできるので、誰がどこで仕事をしているかがある程度は共有できる。
IBMで在宅勤務制度が始まった頃は、在宅で仕事をする際には事前に報告する必要もあった。それが今はチーム内で情報共有できてさえいればいいというのは、かなり緩やかなルールだろう。これがテレワークでの仕事のハードルを下げることにつながっているはずだ。いつ子どもが熱を出すかは分からないので、事前には届けようがない。テレワークで効率的に仕事をするには、こういった柔軟なルールがあることも重要なのだ。
その上で研究開発の仕事は、個人の裁量に任されているところがテレワークをやりやすくしている。
「研究の仕事はチーム内でタスクに分かれています。たとえばベンチマークの性能評価の作業などは、独立した形で作業が割り当てられます。分かれているので、1日集中してベンチマークのコードを書きたいと言った際には家でやることができます。それでチーム作業が孤立するわけではありません。分からないことがあれば、すぐにチャットでチームメンバーに相談ができます」(榎さん)
チャットは便利だが、もちろん口頭で相談したほうがいいこともある。
「直接話をするのは大事だと思います。ちょっとしたきっかけから、話がさらに進むこともあるからです。コミュニケーションの取り方にもメリハリは必要だと思います」