中小企業や小規模オフィスでファイル共有したいときに役立つ
――橋本さんは3月に『Windows 10 上級リファレンス』を執筆されましたが、今回テーマをネットワークに絞った『Windowsネットワーク上級リファレンス Windows 10/8.1/7完全対応』を出版されました。本書にそれなりのニーズがあるからこそですが、どういった主旨の書籍なのでしょうか。
橋本:コンシューマOSで最も多いのは、やはりWindowsです。本書には、そのWindowsでネットワークを構築するとき、Windows Serverを使わず、Windows 10、8.1、7というコンシューマOSをそのままサーバーにしてしまう方法を紹介しています。いかにもWindows Serverの話かと思われそうなタイトルですが、実はそうではないというのは最初に知っておいてもらいたいですね。
サーバー専用PCを用意するほどでもない、例えば社内や事務所の20人くらいでファイル共有をしたいとき、本書は大変役立つと思います。それくらいだったら余っているPCに搭載されているコンシューマOSで充分なんですよ。専用OSでなくて大丈夫なのかと思われるかもしれませんが、どうやってセキュリティを確保するか、ユーザーを管理するか、それらをクリアする手法を解説しているわけです。
大企業ならサーバー用PCを用意したり委託したりできますが、中小企業だと初期費用や維持管理の点からなかなかそうはいきませんよね。ですから、余っているPCや買ってきたばかりのPCで、いかに利便性を失わず、かつ余計なコストをかけずにネットワークを管理するかが重要になります。コンシューマOSだとトラブルが起こったときでも簡単に修復できますが、そういったことを想定した技術書なんです。中小企業もしくは大企業の支店や事務所の方で、ファイルサーバーに興味や課題がある方には読んでいただきたいですね。1冊あると便利です。
前バージョンのOSにも完全対応している技術書の価値
――では、本書の内容について教えていただけますか?
橋本:本書の「第1部 Windowsネットワーク構築 編」ではセキュアで簡単に共有ができるサーバークライアントを構築する方法を解説しています。まさにビジネス向けになっており、ビジネスユーザーにはこちらがメインとなるでしょう。最もこだわったのはルーターと無線LANの設定についての解説です。ビジネスシーンでは普通ビジネス向けのルーターを使いますが、本書ではコンシューマ向けのルーターでどんなセキュリティを実装できるかを細かく書いています。
「第2部 Windowsネットワークの活用 編」はどちらかといえば家庭で使うような応用的な内容で、iPadやAndroidといったデバイスからPCのホスト機能にアクセスする方法について解説しました。例えば動体検知できる防犯用のネットワークカメラの利用、メディア共有によってポータブルデバイスで動画を観る方法などがあります。お風呂でも観られるように、防水アイテムの紹介もしています(笑)。
また、これはぜひお伝えしておきたいのですが、今後刊行されるWindows本の多くは最新OSに焦点を合わせたものです。わざわざ古いOSの機能を解説した書籍は刊行されないでしょう。ですが、本書はWindows 10だけでなく8.1と7にも完全対応しています。ネットワークに組み込まれるOSは最新のものとは限らないからです。
Windows 10の無償アップグレード期間は終了しましたから、このまま8.1や7のまま使われる方や企業も多いはずです。最新OSだけしかないオフィスはおそらく珍しいですから、本書のような前バージョンのOSがネットワーク内に存在することを想定した技術書は価値があるのではないでしょうか。
まずは読み通し、分かった気になって満足してほしい
――本書のタイトルにある「上級」とはどういう意味を表しているのでしょうか。
橋本:高度な内容を意味すると思われるかもしれませんが、本書は初心者でも読めるように丁寧に書いています。一般的な初心者本に満足できない方向けという意味で上級なんです。つまり、もっと上を目指したい方、一歩進んだ使い方をしたい方がターゲットだということですね。もちろん高度なことも書いていますが、むしろアドバンスドと読み替えていただくといいかもしれません。
今回、本書を手に取ってくださった方に満足していただくことを最終的な目標としました。満足できるという意味では、どんな方にでも読んでいただく価値があると思います。
というのも、以前の書籍で「この本を読むと上級者になった気持ちになれる。Windowsを分かった気になれる」という感想をいただいたことがあります。これが重要なんです。本書は技術書なので目的を持って読まれる方はもちろんいるでしょう。その方の期待に応えることは当然として、もう一つ、本書を読むことで分かったような気になって満足してもらえることも大事だと考えています。要するに、よくあるような技術について杓子定規に説明するだけの本だと単調なので、読み物として読めるように工夫しました。本書の読み方としては、すべて理解できなくても読み進め、読後に分かったような気になることが第一歩です。
そして、分かった気になると実践してみたくなるでしょう。しかし、実際には分からないことが多いから調べないといけない。それが第二歩です。読んで満足感を得て実践したくなることがなにより大事で、その次に本書『Windowsネットワーク上級リファレンス』を「リファレンス側」として活用していただきたいのです。んですね。そういう読み方が著者としての希望です。
――分かったような気になってもらうために工夫したことはありますか?
橋本:ビジュアル面ですね。著者としてメインに立っていますが、レイアウトや図版はかなり綿密に調整してもらい、図版を見ていくだけでも理解できるように作りました。一見単純に見えますが、改行一つにもこだわっています。当然文章も必要ですが、それは図版を補足するためです。「図解」がまさにふさわしい技術書だと思います。
最もファイルサーバーに向いているWindowsを使いこなす1冊
――橋本さんはWindowsがお好きなんですか?
橋本:好きですけれども、知りすぎてしまったおかげでおかしいと思っている部分もあります。実は本書にはそうしたことも書いているんですよ。Windowsだからすべていい、というわけではありません。僕はMicrosoft MVPを持っていますし、Windows端末もかなり所有していますが、Android端末とiOS端末も揃えていますから、本書は非常に客観的に書かれていると思っていただいて結構です。
もちろんWindowsが他と比べて強みを持っているところはきちんと書きました。本書にはAndroidをサーバーにする、ファイル共有ホストにする方法についても紹介していますが、Androidにファイルを置いてWindowsからどんどんアクセスするのは不可能です。実を言うと、ファイルサーバーに向いているのがWindowsなんですよ。Windowsをサーバーにしてしまえば、AndroidからでもiOSからでも容易にアクセスできるんですね。これは第1部でしっかり解説しています。
――ありがとうございます。本書はこれまで多くのWindows本を書かれてきた橋本さんならではの1冊になっているのですね。最後に一言いただけますか?
橋本:本書はWindowsネットワークの初心者でも読めると言いましたが、「インターネット回線の契約の仕方」といった基本的なことを手取り足取り教えるような本ではありません。分かりきっていること、やれば分かることは省いて、すでにネットワークを組んでいる方や組もうとしている方が分からないこと、もう一歩進むために必要な知識を解説しています。本書が読者にとっての新しいテクニックへの喚起や、ネットワークの安定&パフォーマンスの確保に貢献できれば幸いですね。