サーバーレスアーキテクチャが次なるITの変革をもたらす
――Azure App Serviceの中で特に力を入れているものはありますか?
Azure App Serviceは、Web App、Mobile App、API App、Logic App、そしてサーバーレスアーキテクチャを実現するAzure Functionsといった5つのユニークなAzure Application Platformで構成されています。
この中でも、サーバーレスアーキテクチャのAzure Functionに力を入れています。この領域には他に、AWSのLambdaが一般提供サービスとして展開され GoogleのGoogle Cloud Functionsがプレビュー版でサービスされクラウドでもっともホットなところです。オンプレミスに対しクラウドが登場してIT環境が大きく変革したように、サーバーレスアーキテクチャはIT、クラウドの世界に大きな変革をもたらすと考えています。
私には今2人の子どもがいますが、彼らは学校でコーディングを学んでいます。彼らの状況は決して特殊なものではありません。子どものうちにコーディングを学ぶのは、世界中で起きていることです。今後は、どのような職業に就くとしても、コーディングを使えることが業務を大きく助けることになるでしょう。そうなったときに、サーバーレスアーキテクチャは重要で効果的なものになります。インフラがどうなっているかを気にすることなくコードが書けるのです。
そのため、私が率いているチームの半数、15名を昨年このサーバーレスアーキテクチャの機能開発に割り当てました。そして、ゼロから始めて3ヶ月ほどで基本的な仕組みを開発し、6ヶ月という短い期間で一般提供にまでこぎ着けました。
――その他でPaaSの領域で力を入れているところはありますか?
もう1つ力を入れているのが、Linuxのサポートです。マイクロソフトは、Linuxが大好きです。数年前までは真逆のことを言っていたかもしれません(笑)。とはいえ今は、Linuxのコミュニティを愛しているのです。我々がLinuxに関わった成果を、コミュニティや顧客に提供したいと真剣に考えています。これはAzureがオープンなプラットフォームだからこそのマイクロソフトの変化です。
すでにAzure App Serviceの35%はオープンソース・ソフトウェアベースのもので動いています。こんなことは5年前にありませんでした。実際にLinuxのワークロードのサポートに大きく投資をしており、すでにAzure App ServiceではPHPやNode.jsなど開発者の好きなものが使えるようになっています。これまで使い慣れてきたものを使えるのです。さらにマイクロソフトはDockerも大好きです。AzureにプリセットされているLinuxだけでなく、自分のDockerコンテナをAzure App Serviceで使えます。そこではRubyでもPythonでも好きなものが使えます。
このLinuxやDockerへの投資は、日本の市場でも重要です。日本でさまざまな顧客に会い会話をしていると、これらの領域に投資したことは正しかったと確信できます。これらの投資でAzureのサービスに、パートナーが参入しやすくなっています。Linuxのサービスは現時点ではプレビューですが、なるべく早くに一般公開する予定です。
Azure App Serviceが成長する企業のアプリケーションインフラを支える
――Azure App Serviceを活用している成功事例を教えてください。
まずは、Jet.comというECサイトの成功事例があります。Jet.comはAmazon.comに競合するようなEコマースのスタートアップ企業です。Amazonよりも安価に商品を提供する手法で、巨大な先駆者に果敢に挑戦しています。Jet.comは創業当初からAzure App Serviceを同社のサービスインフラとして活用し、商品がカートに入ると、リアルタイムに最安値となる価格を再計算する仕組みなどを構築しています。それらを活用して、Jet.comはかなり速いスピードで成長しました。そしてその将来性が見込まれ、小売り大手のウォールマートが30億円で買収するに至っています。Jet.comが小規模の頃から大きく成長するまでを、Azure App ServiceのPaaSが支えたのです。
もう1つの事例としては、ニュージーランドでマーケティングと分析サービスを提供するPlexureという会社があります。小売業では実際の店舗でのさまざまな物理的な移動を把握したいと考えています。顧客が店舗内のどの通路を歩き、どの商品を手に取り、手に取ったのに買わなかった商品は何かといったことを知りたいのです。このような情報は、じつはオンラインのEコマースでも同様に把握したいものです。
さらに、顧客がどのような商品に興味を持っていて、ソーシャルネットワークなどで自分たちの店や商品についてどんな発言をしているかも知りたい。顧客のさまざまな情報を収集し、そこに小売業の新たなビジネスロジックを見いだすようなサービスを提供しているのがPlexureです。彼らは、アーリープレビューの段階からAzure App Serviceを利用していました。見いだしたロジックを、Azure App Serviceを使って顧客企業のソリューションに組み込んでいます。
ロンドン運輸局の事例では、Azure App Serviceを使ってモバイルアプリケーションでオフライン時のデータを活用するソリューションを実現しています。これは運輸局の社員が利用するモバイルアプリケーションで、設備の故障などを発見したらモバイル端末で該当箇所の写真を撮影し報告するものです。地下など電波の届かないところが多いのでオフラインで写真を撮り、地上に出てオンラインになると自動でデータをサーバーに送る仕組みを実現しています。
また、Azureが絶大な威力を発揮したものとしては、カナダのテレビ局であるCanadian Broadcasting Corporationの事例があります。ここでは2015年に実施されたカナダの総選挙の投票結果を、Azureを使ってリアルタイムに速報で配信しました。このときは6時間で36億ものリクエストが処理され、ピーク時には毎秒なんと80万リクエストもの処理が行われました。これだけの処理を遅滞なく行えるのが、Azureの威力なのです。
――Azure FunctionsやLinux以外に力を入れているところはありますか?
今は、この2つがトッププライオリティです。迅速にサービス強化を進めるため、一度にたくさんのことには手を出さないようにしています。とはいえ1つ考えているが、既存のAzure App Serviceユーザーの日々の作業を効率化して改善することです。そのために機械学習やAIの仕組みをうまく使い、アプリケーションの問題を簡単に診断できるようにすることを考えています。これは顧客の収益などに直接結びつくものではないかもしれませんが、Azure App Serviceを使い続けてもらうことにつながると思います。
こういった取り組みはAzure App Serviceに限った話ではなく、トップから出ているAzureサービス全体の方針です。ユーザーは新しいものにも興味を示しますが、既存の環境をより良くすることでさらにたくさん使ってもらえるようになると考えています。
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