
2016年12月1日、「AIで拓くオープンイノベーションとサービスローンチにおけるマーケティング」セミナー(主催、翔泳社)が開催された。デジタルトランスフォーメーションに代表される新しいビジネスの潮流におけるAIやコグニティブコンピューティングの可能性や活用法が示された。
リーンスタートアップでAIができることとは?
AI(人工知能)の登場と影響は「産業革命との比較で考えると分かりやすい」と QUANTUM Inc. Startup Studio事業責任者 井上裕太氏は言う。産業革命では内燃機関の登場、電気工学の発展などがあり、人間の肉体労働や手作業が置き換わっていったと言える。
一方、AIがもたらしうる革命とは、コンピュータの計算能力向上と情報科学の発展とデータ量増加が組み合わさり、人間の情報収集や情報処理作業が置き換わると考えられている。井上氏はAIのコアとして「地頭の良さにスキル(効率)とデータ(経験)が加わったもの」と説明する。

QUANTUM Inc. Startup Studio事業責任者 井上 裕太氏
なおAIの登場で「人間(の仕事)が不要になるのでは」という懸念がたびたび生じる。そもそもAIには「Generalized AI」と「Specialized AI」がある。前者は人間の活動を全般的にこなすもので、後者はコンピュータ囲碁プログラムAlphaGOなど何かの活動に特化したものだ。前者を実現するには課題が多くあり、実現化はまだ当分先である。しかし後者は現実的になりつつあるので、人間の活動をどのようにサポートして付加価値を創出するかを考えるのが良さそうだ。
そうしたなか「AIは新規事業開発でパワフルなサポーターになりえます」と井上氏は指摘する。事業開発をサーフィンに例えると、成功するには大きな波を見つけて、それを乗りこなす必要がある。大きなモーメンタムを的確なタイミングで見いだすために、情報収集にAIを活用すればいいというのが井上氏の考えだ。これまでマーケット分析にはSNSや各種文献を読みこなす必要があったが、AIなら大量のデータを素早く読み、分析できるからだ。
波を見つけたらバックキャスティングが重要になるという。過去のデータや実績から考えるのがフォアキャスティングで、現在から過去を振り返り何をすべきだったのか考えるのがバックキャスティングでそれを使って新規事業を発想していく。井上氏は「馬車をどんなに改善しても鉄道は生まれない」と述べる。新しいビジネスを生み出すためにはバックキャスティングができるかどうかが鍵となる。
例えばUber。最初は「なぜタクシーが捕まらないのか」という移動に関する課題から、リムジンが空いていることに目を付けてリムジンのレンタルサービスをスタートした。フォアキャスティングだけならレンタルサービスだけで終わっていたかもしれない。Uberは何をすべきかを考えるというバックキャスティングのアプローチと改善を繰り返して事業を成功させてきた。
発想のポイントとして井上氏は「10年後、世界は○○○時代になっているべき」というビジョンが必要だと説く。Uberであれば空欄にあてはまるのは「全ての交通がオンデマンドになる」だ。それを実現するためにどうするかを考えていく。
ビジネスの芽が出たら、育てていく時もAIは活用できる。ビジネス成長には顧客との対話は重要になる。これまではインタビューやアンケートフォームがあり、最近ではLINEなどSNSを通じた対話ができる。今コンビニや銀行のLINEにAIが用いられていることもあり、顧客との関係を深め、生の声を収集するのに役立てることができる。
井上氏はBoxのCOOを務めるDan Levin氏の言葉を引用した。「成功したければ、とにかく速く動け」と。速く動くとすぐに失敗に直面することになる。悪いことのようだが、実はこのほうが正しい。じっくり考えて事業を立ち上げるよりも素早く動き、誰よりも速く失敗を経験し、改善を重ねることでビジネスは成功するというのがLevin氏の考えだそうだ。井上氏は「AIでリーンに行きましょう」と締めくくった。
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加山 恵美(カヤマ エミ)
EnterpriseZine/Security Online キュレーターフリーランスライター。茨城大学理学部卒。金融機関のシステム子会社でシステムエンジニアを経験した後にIT系のライターとして独立。エンジニア視点で記事を提供していきたい。EnterpriseZine/DB Online の取材・記事も担当しています。Webサイト:https://emiekayama.net
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社
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