ユーザーの利便性の向上がPaaSの目的
――IaaS先行で始まったクラウドですが、これから利用が本格化するのはPaaSやSaaSになると思います。Microsoft AzureのPaaSサービスの中核であるAzure App Serviceは、どのようなサービスなのでしょうか?
マイクロソフトでは、クラウドのサービスを提供し始めた1日目から、PaaSが優位性になると考えてきました。そんな中、Azure App Serviceは、当初はWebのワークロードをクラウドに展開する新しい方法の1つとして提供しました。
現状、クラウドには3つのワークロードがあります。まずはIaaSで、Amazon Web Services(AWS)はここから始まっています。次がPaaSで、マイクロソフトはここにもっとも力を入れています。またSaaSは、Salesforce.comがスタートさせたものでしょう。
この3つを実世界にたとえれば、IaaSは自分の家を所有するようなものです。キッチンをどこに置き、寝室をどうするかなど、すべてを自分で決めることができます。とはいえ、いざ何かが起これば自分自身で直す必要があります。
PaaSは賃貸住宅のようなものです。壁紙などを選ぶ自由はありますが、寝室やキッチンの場所を変えることはできません。多少のメンテナンスは自分でする必要はありますが、ほとんどのことは大家さんがやってくれます。SaaSは、高級ホテルのようなものでしょう。どこに何があるかは心配する必要がありませんが、その分高いコストを払うことになります。
マイクロソフトは今、PaaSにもっとも投資をしています。我々のPaaSは5年前、ブログなどを簡単に展開、運用できるようにするAzure Websitesというシンプルなサービスでした。時間をかけてそれを拡張し、ECサイトなども含むあらゆるワークロードをクラウドで展開できるようにしたのがAzure App Serviceです。
すでにグローバルで37万5,000を超える顧客がいて、120万ものアプリケーションがホストされています。120万のアプリケーションからは、日に100億のリクエストがありそれが処理されています。そしてアプリケーションは、世界中の30リージョンにあるデータセンターから提供されています。Azure App Serviceは、5年間、毎年3倍の速度で成長してきました。今後も同じような速度で成長すると考えています。
――マイクロソフトのPaaSが目指しているのはどんなところですか?
PaaSの目的としては、当初は既存のコードをスムースにクラウドで使えるようにすることでした。それが今では、自動化を進め持続的なアプリケーションの構築やトラフィック管理などさまざまな機能が追加され、エンドユーザーの生産性の向上が大きな目的となっています。将来的にPaaSは、1つの技術を深掘りするのではなく、横展開でさまざまなものを取り入れていくことになるでしょう。マイクロソフトがLinuxに対応しているのも、そのような将来を見据えてのことです。どんな開発プラットフォームを使ってもAzure App Serviceなら効率的にアプリケーションを開発、展開できるようにします。
もう1つの方向性としては、特定のニーズに応えていくというのもあります。政府やレガシーな企業が、クラウドの良さは意識しているけれどなかなか踏み出せないでいる現状もあります。踏み出せない理由は、セキュリティの懸念であったり、特有な要件に答える必要があったりとさまざまでしょう。
マイクロソフトでは、さらにAzure App Serviceに投資して複数環境で利用できるようにし、ハイブリッドクラウドで容易に使えるようにしていきます。そのための1つには、たとえばパブリッククラウドの革新をオンプレミスやプライベートクラウドでも使えるようにするAzure Stackがあります。
また、SIerやISVなどが自社データセンターなどで展開してきたサービスを、マイクロソフトのクラウドデータセンターに持ってくることで、さらなる価値の提供をサポートするのもPaaSの目的です。Azureに持ってくれば、既存のAzureの顧客に自社サービスを展開して価値を提供しやすくなります。これら目的を果すためのPaaSへの投資は、Azure App ServiceだけでなくAzureサービス全体で重要なものとなっています。