このソフトウェアの不具合については、以前にも、この連載で取り上げたことがあるのですが、なんと言っても、訴訟の数も多いですし、今回、また少し違うポイントを含む裁判の例があったので、平成28年に判決の出た別の裁判の例をご紹介したいと思います。事例は、医療用ソフトウェアを組み込んだ機器のお話で、純粋なソフトウェアのバグについてのものではありませんが、機器に組み込まれたソフトウェアのバグも含めて多数の不具合に苦しんだユーザとベンダという意味では同じものです。判決文から事件の概要を見てみましょう。
システムの不具合を巡る裁判の例
(東京地裁平成28年2月26日判決より)
医療機器・医療ソフトウェアの販売業者が、あるクリニックに医療システム機器を納入したが、納入物には不具合が多数あった。販売業社はシステムの不具合について原因の調査と対応検討を続けたが、システムそのものは、一応、稼働していた為、クリニックに代金の支払いを求めたが、クリニック側は、不具合が業務に支障をきたしているとして、代金を支払わずにいた。不具合対応を続けていた販売業者だったが、いつまで経ってもクリニックが代金の支払いに応じないことから、ついに契約を解除し,機器の返還と損害賠償等を求めて訴訟を提起した。一方、クリニック側は、販売業者が作業を止めてしまったことは、債務不履行であるとして、瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めた。
なお、販売業者は、不具合対応中、クリニックの求めに応じて、謝罪と、不具合の再発防止を約束する文書を交付していた。
今回は、医療システムのお話ではありますが、いつまで経っても解消しないため、ユーザが代金の支払いを求めたことなど、ソフトウェアの開発でも同じようなケースがいくつもあります。
概要説明にもある通り、このシステムは全く動作しなかったわけではなく、ある程度、業務にも使えていたようですが、クリニックの方としては、あまりに不具合が多く業務に支障が出るので、これを解消するまでは代金を払わないと考えたようです。いくら形ばかり動いても、そのためにかえって業務の生産性が落ちるような有様では、代金を支払いたくないと考えるクリニック側の気持ちもわからないではありません。