このAzure Everywhereパートナー企業が今回のアポロ計画に参画し、「Microsoft Azureに興味はあるものの、どう活用していいか分からない」「導入を検討しているが、効果のほどが見えない」というユーザーに対して、Microsoft Azureの価値を手軽に知ってもらえる自社の技術検証サービスや訪問型ワークショップを提供した。そして、アポロ計画期間中に特に好評を博した3社のサービスが、今回のアポロ計画で特別に表彰を受けた。このコーナーでは、受賞した3社のサービスについてお届けする。第1回目に紹介するのは、東京エレクトロンデバイスの技術検証サービス「Azure IoT PoCキット」だ。
Azureを活用したIoTソリューションをパートナー企業とともに実現
東京エレクトロンデバイスは、半導体製造装置メーカー大手の東京エレクトロンのグループ会社で、半導体・電子デバイスおよびICT製品の専門商社として、製造業をはじめさまざまな業界に製品・サービスを提供している。同社 IoTカンパニー バイスプレジデント 福田良平氏によれば、同社とマイクロソフトの協業の歴史は古く、20年以上前にまでさかのぼるという。
「デバイスに組み込まれるOSとして『Windows Embedded OS』を1993年から販売代理店として扱っており、その過程でマイクロソフトさんとは密接な協業関係を築き上げてきた。さらに近年では、デバイスメーカー・商社としてIoTのソリューションに力を入れているが、IoTの仕組みを実現するにはどうしてもクラウドは不可欠。Microsoft Azureと深くかかわるようになったのは、自然な流れだった」(福田氏)
同社は自社のIoTソリューションにMicrosoft Azureを採用するのみならず、2016年には「Microsoft Azure Cloud Solution Provider(CSP)」プログラムに参画し、Microsoft Azureのディストリビューターとして、リセラー企業が自社製品とMicrosoft Azureを組み合わせたIoTサービスを開発・販売できるよう、月額課金システムおよび技術サポートの提供を開始している。
こうして、従来から取り扱ってきたデバイス製品にクラウドサービスを加え、さらにデバイスとクラウドの間でセキュアにデータをやりとりするためにEmpress社のソリューションを新たに導入することで、同社は「下回りのデバイスから、クラウド環境上でのデータの蓄積・可視化・分析まで、IoTのすべてのスタックをパートナー企業とともに網羅できるようになった」(福田氏)という。
IoTでなにをする?―アイディアを喚起するためのAzure IoT PoCキット
そんな同社が今回のアポロ計画で提供したのが、「Azure IoT PoCキット」だ。これは、Microsoft Azureを用いたIoTの最小限の仕組みを、検証環境で素早く低コストで体験できるというものだ。具体的には、以下の製品が含まれている。
- Texas Instruments製マルチセンサータグ
- アットマークテクノ製Armadillo-IoTゲートウェイ製品
- NTTコミュニケーションズ OCNモバイルONE(プリペイドSIM)
- Microsoft Azureクラウドサービス(利用料金2万円分を含む)
- セットアップガイド
マルチセンサータグには温度、湿度、圧力、加速度、ジャイロなどを検知・計測できるセンサーがついている。これらのセンサーで計測した値をBluetoothでIoTゲートウェイに転送し、さらにそれを有線・無線LANや3G/LTE経由でMicrosoft AzureのIoT Hubサービスに送信。各種クラウドサービスによって集計された値は、Power BIによってグラフィカルな形式で可視化される。
これら一連のIoTの基本的な流れが、同キットを導入すればわずか9万9800円で実現可能だという。同社 IoTカンパニー エンベデッドソリューション部 部長代理 西脇章彦氏は、ユーザーが同キットで得られる価値について次のように述べる。
「これら一連の仕組みをすべて自前で構築するとなると、特にセンサーから大量データをリアルタイムに収集し蓄積・分析する環境を構築するために、極めて多くの時間とコストを割かなければならない。しかしAzure IoT PoCキットなら、この部分はすべてMicrosoft Azureのクラウドサービスでまかなわれるため、低コストですぐ始めることができる。しかも詳細なセットアップ手順も提供されるため、誰もが気軽にIoTを体験できるようになっている」
また、当初からMicrosoft Azureの利用料2万円分(※)が含まれているため、少なくとも3カ月間程度は追加料金なしで検証環境を利用し続けられるという。
※利用期間は3ヶ月まで
Azure IoT PoCキットをベースにさまざまなソリューションを展開
このAzure IoT PoCキットを使って検証可能なIoTソリューションの分野は多岐に渡るが、おおまかには2種類に大別できるという。
1つは、品質管理のために工場や倉庫などの環境データをセンサーで定常的に取得し、可視化するというもの。例えば温度・湿度センサーを倉庫に設置し、常に測定値が許容範囲内に収まっているかを監視し、もし異常値を検知したらアラートを上げるといった具合だ。あるいは、作業員の体温をセンサーで測定し、その値を監視するような使い方も考えられる。既に、Azure IoT PoCキットに追加のセンサーを加え、さらにMicrosoft Azureの「Azure SQL DB」サービスも追加して測定データを蓄積できるようにすることで、上記のような取り組みを始める企業が出てきているという。
もう1つのユースケースが、機器の状態をセンサーでリアルタイムに測定・可視化するとともに、機械学習技術を使って「故障の予知」を行おうというものだ。製造業で使われる生産設備などは、故障が発生する前に振動や異音といった予兆現象を発する。こうした予兆を検知するためには、これまでは熟練の保守作業員のスキルに頼るほかなかったが、これをセンサーで検知し、さらにその測定値の推移をMicrosoft Azureの機械学習サービスに学習させれば、ある特定の推移パターンから故障を予知できるようになる。
このように、同キットに追加のセンサーや新たなクラウドサービスを付け加えることで、さまざまな用途に応用可能なIoTソリューションが実現できるという。
「デバイス技術に強いパートナー企業がAzure IoT PoCキットに独自にセンサーなどを加えたり、あるいはクラウド技術に強いパートナー企業がMicrosoft Azureのさまざまなサービスを加えることで、個々のパートナー企業が自社の強みを生かしたIoTソリューションを構築できる。しかも、弊社がCSPとして提供するMicrosoft Azureの課金体系は、ユーザーが使った分だけを翌月に支払う従量課金制を採用しているため、より多くのユーザーに受け入れられやすいはず」(西脇氏)
同キットが多くのパートナー企業やユーザー企業に好評を博したことを受け、現在同社には多くのパートナー企業から「うちのデバイスを使った検証キットを共同開発したい」との申し出が寄せられているという。こうした声に応え、同社では今後新たなデバイスやクラウドサービスを組み合わせたAzure IoT PoCキット「第2弾」「第3弾」の提供も予定しているという。