
EUから課せられているパーソナルデータの越境移転規制が来年2018年には解除されるかもしれないことを示唆する日EU間の共同声明が公表された。その数日後に出た日本と欧州連合(EU)との間における経済協力協定(EPA)が大枠合意 (※1)されたニュースに隠れて目立たないが、越境移転規制に係るこの共同声明は、EUでビジネスを展開する日本企業にとって、大変重要な意味を持っている。今回は、EUのデータ越境移転規制解除の見通しと、解除された場合の日本企業の対応について考える。
EUによるデータの移転規制が解除される?
本連載(第5回、17回、18回)で何度も取り上げているとおり、EUは独自の基準に照らしてパーソナルデータの保護が十分でないと判断される国へのデータ移転を原則的に認めない「データの越境移転規制」を設けている。日本は保護が十分であるとはEUから認められておらず、この結果、EUからパーソナルデータを日本に移転するためには、企業は特別の契約(※2)を、各EU構成国当局の監督のもとで交わさなければならない状況にあり、大きな負担となってきた。
しかし、7月3日に個人情報保護委員会と欧州委員会から出された共同声明(※3)では、双方で対話を続けてきた結果として、この状況が大きく変わる可能性がでてきた。この共同声明の最後の一文である
「両者(日本とEU)は、双方の制度間の類似性が強化されたことを基礎として、関連する相違点への対処等により、2018年の早い時期に、この目標を達成するための努力を強化することを決意した」
からは、2018年の早い時期にEUから日本の個人情報保護制度の十分性が認定されて(以下「十分性認定」という。)、データの越境移転規制が解除され得ることが示唆されている。
EUの新しいパーソナルデータ保護のルール「一般データ保護規則」(GDPR:General Data Protection Regulation)は、2018年5月25日から施行が予定されていることを想起すると、「2018年の早い時期」という表現は、十分性認定を、このGDPR施行タイミングに間に合わせることを意識したものと考えられる。EU域内でビジネスを行っている日本企業にとっては、期待の膨らむ発表である。
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小林 慎太郎(コバヤシ シンタロウ)
株式会社野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 兼 未来創発センター 上級コンサルタント専門はICT公共政策・経営。官公庁や情報・通信業界における調査・コンサル ティングに従事。情報流通が活発でありながら、みんなが安心して暮らせる社会にするための仕組みを探求している。著書に『パーソナルデータの教科書~個人情報保護からプライバシー保護へとルールが変わる~』(日経BP)がある。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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