
IoT(Internet of Things)の進展で、様々な機器がネットとつながり、センシングしたデータはクラウドに送られて利用されるようになった。IoT化の波は、私たちに身近な存在であるテレビにも押し寄せている。テレビは長い間、放送波を受信して表示する一方向の機能に限られていたが、ネットと接続して、放送と通信を連携する機能を備えた「スマートテレビ」が普及し、テレビならではエンターテイメント性の高い双方向のサービスも徐々に広がっている。しかし、IoTには特有のプライバシー上の問題があり、特にテレビのように広く普及している機器がネットと接続する場合には、慎重な対応が求められる。本稿では、スマートテレビを題材にして、IoTに特有のプライバシー問題への対処を考える。
放送分野でIoTデータのプライバシー保護対策が示された
2017年5月30日、改正個人情報保護法とともに、新たな放送分野の個人情報保護ガイドライン*1(放送ガイドライン)が施行された。個人情報保護法の改正目的の一つがデータ活用の促進であったように、放送ガイドラインでは、これまで放送特有の事情を理由に、活用を厳しく制限していた「視聴履歴」を、プライバシー保護へ配慮することを条件に、多様なサービスに活用できるように改められた(図表1)。

図表1:視聴データ利活用によるサービス例(ガイドライン改正で新たに可能となった 出所)総務省
[クリックすると図が拡大します]
活用の条件となるプライバシー保護への配慮は、放送ガイドラインでは方向性を示すまでにとどめ、具体的な対応方法は、認定個人情報保護団体である(一財)放送セキュリティセンター(SARC)による個人情報保護指針*2(SARC指針)で定められた。SARC指針は、総務省ワーキンググループでとりまとめられた内容*3に基づいており、有識者、消費者代表、放送に関わる事業者などによる侃々諤々の議論の成果が込められている。
具体的には、以下の5項目について規定している。いずれの項目も、放送に限らず、IoTデータを取り扱う上で不可欠なプライバシー保護対策である。
- 通知と同意
- 要配慮個人情報の推知(プロファイリングデータの取扱い)
- テレビを世帯で共有している場合の配慮
- 保存期間と消去
- 匿名加工情報に係る取扱い
実際の内容についてはSARC指針にゆずり、以降ではIoT特有の問題に深く関わる(1)~(3)のもととなった考え方について紹介する。なおここで述べることは、すべて個人情報に該当するデータを想定していることに留意して読み進めていただきたい。
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小林 慎太郎(コバヤシ シンタロウ)
株式会社野村総合研究所 ICT・メディア産業コンサルティング部 兼 未来創発センター 上級コンサルタント専門はICT公共政策・経営。官公庁や情報・通信業界における調査・コンサル ティングに従事。情報流通が活発でありながら、みんなが安心して暮らせる社会にするための仕組みを探求している。著書に『パーソナルデータの教科書~個人情報保護からプライバシー保護へとルールが変わる~』(日経BP)がある。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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