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「組織は新しいOSを実装しなくてはならない」SASが示したデジタル変革のビジョン

edited by DB Online   2019/10/30 08:00

 AIおよびアナリティクスソフトウェアのリーダー企業SAS Institute(以降、SAS)は、10月21日から23日にかけてイタリア・ミラノでカンファレンス「Analytics Experience 2019」を開催した。「Together we make analytics real」というテーマの下、約1,800人のデータサイエンティストやビジネスリーダーが集結した。この記事では22日午前に行われた全体セッションのハイライトを紹介する。

注目分野は自然言語処理とコンピュータービジョン

 現在のテクノロジー市場で最も活況を示している分野の1つはAIであろう。毎日のように新しい活用事例が紹介されている中、最も急速に成長し、ビジネスへの応用を期待されている下位分野として、SAS 創業者兼CEOのジム・グッドナイト氏は「自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)」と「コンピュータービジョン」の二つを挙げる。

ジム・グッドナイト氏
ジム・グッドナイト氏

 自然言語処理とは、コンピューターが人間の言語を理解、解釈、操作できるようにする取り組みのことであり、コンピューターは言語を用いて人間との自律的なコミュニケーションを実現する。アナリティクスベンダー各社は、チャートやグラフの説明を自動的に提供する拡張アナリティクス(Augmented Analytics)機能をこぞって提供しているが、その裏側には自然言語処理が動いている。また、カスタマーサポートで人間の代わりに簡単な質問に回答してくれるのも、裏側に自然言語処理が動いているからだ。人間はより複雑な質問への回答に集中できる。

 もう一つの注目分野であるコンピュータービジョンとは、視覚的な世界を理解および解釈できるようにコンピューターをトレーニングする取り組みを指す。ディープラーニングのモデルを用いて、画像や動画の中の物体の特定や分類を正確に行うことができるようになる。Googleなどが取り組む自動運転の実験、Amazon Goの店舗運営がその代表例だ。今回のイベントの受付システムでも、コンピュータービジョンが使われており、予め提出した写真から個人を認識し、パスを発行していた。

 SASはAIおよびアナリティクスのプロダクトを提供し、様々な側面から組織のデジタル変革を支援している。グッドナイト氏は次のような手法とそれぞれのユースケースを挙げた。

ニューラルネットワーク

 金融業界では取引不正の検知でニューラルネットワークを利用している。ドイツの保険会社ERGO Groupは、ニューラルネットワークを用いて数百万件の取引を分析している。ニューラルネットワークは建物を監視して電力使用量を最適化し、システムの故障を予測するのにも使われている。

決定木

 SASは米ノースカロライナ州ウェイク郡の固定資産税の査定を支援している。さらに多くの税務当局と協力し、個人の納税不足を明らかにし、安定的な財政基盤の確立に貢献している。

回帰分析

 この手法はマーケティングのターゲット市場分析によく使われる。他にも、金融機関のリスク評価やアンチマネーロンダリングのアラートシステム基盤で使われている。

予測

 大規模な政府プログラムの適格性の評価、電力業界の電力需要予測や送電網のモニタリングにSAS Predictive Analyticsが使われている。例えば、イタリアのあるエネルギー会社は、同製品を利用し、石油探査プロセスの自動化と改善を繰り返している。

コンピュータービジョンで医師の治療方針決定をサポート

 続いてグッドナイト氏は、ヘルスケア分野でSASのサポートでコンピュータービジョンを導入した事例を紹介した。登壇したのは、アムステルダム大学医療センターのヘール・カゼミア氏(がんセンター、外科腫瘍学部教授)である。同センターでは大腸がんの治療方針を決めるため、コンピュータービジョンとSAS Predictive Analyticsを活用している。大腸がんは世界で3番目に患者の多いがんで、約半数の患者のがんが肝臓に転移するのだという。

 外科医としてのカゼミア氏が考える大腸がんの最善の治療法は、腫瘍の切除であるが、全ての患者に適用できるとは限らない。他の選択肢としては化学療法(薬物療法)がある。化学療法がその患者に適しているかを確かめるため、同センターでは化学療法前後の腫瘍の直径を計測し、30%減少した場合は効果があり、20%以上増加した場合はがんが成長したとみなし、その患者の今後の治療方針を決定している。

 SASのテクノロジーを導入する前、この作業は全て医師が手作業で行っていた。SASのプラットフォーム上に医療画像診断アプリケーションを実装したことで、人間が行うよりも客観的で正確な評価を自動的に行えるようになった。カゼミア氏は、この成果を乳がんや肺がんのような他のがんに応用することや、手術の結果と患者の生存率の予測を試みる計画を打ち明けた。

 医療画像診断へのコンピュータービジョンの適用は、さらなる今後の発展が期待される。例えば、2018年に米FDAが糖尿病性網膜症の検出を目的としたAIを活用した医療機器が承認された。同様のデバイスはEUでも承認されている。グッドナイト氏は、人間の目で識別できるものならば、あらゆるものにコンピュータービジョンは応用できると述べ、次のスピーカーであるオリバー・シャーベンバーガー氏(SAS エグゼクティブバイスプレジデント COO兼CTO)と交代した。


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著者プロフィール

  • 冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

     IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

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連載:Analytics Experience 2019レポート
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