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「はやぶさ」はいかにして危機を乗り越えたのか?プロジェクトマネージャーJAXA川口教授に聞く(前編)

2010/12/14 00:00

2010年6月、7年という歳月を経て、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還した。数々の危機に見舞われながらも不死鳥のように甦り、ひたすら地球を目指す。その姿に多くの人々が感動し、今夏の「はやぶさ」カプセルの一般公開には、わずか数日間で10万人以上が来場し、「はやぶさ」ブームが巻き起こった。さらに、11月になってはやぶさが持ち帰った微粒子が、小惑星「イトカワ」のものであることが判明した。この世界初の偉業を統括したのが、宇宙航空研究開発機構教授の川口淳一郎氏である。壮大なドラマの舞台裏と責任者としての苦渋や喜び、今後の日本の科学技術のあり方や宇宙開発の意義についてお話を伺った。

なすべきことをなした上に幸運は舞い降りる

― 地球の引力圏外の天体に到達し、再び地球に帰還する。この世界初のミッションを「はやぶさ」が完遂したわけですが、プロジェクトの構想から度々の危機を乗り越えて帰還に至るまでの軌跡についてお話しいただけますか。

 ミッションとして掲げたのは「小惑星と地球の間を往復する」という技術開発とその実証でした。他にも科学的成果としては多々ありますが、それはなかなか専門外の方々には見えにくい。とにかく「往復してくる」ことだけが明確な証になるわけです。ですから行っただけでは成功とは言えず、「あくまで地球がゴール」です。以前のプロジェクトで大きな科学的成果を得ながらも、目に見えるミッションを完遂できず、「努力しても結果がでなければダメだ」と悔しい思いをしました。幾度もの危機に見舞われながらも諦めなかったのは悔しさに基づく「ミッションへの執着」に他なりません。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所
宇宙航行システム研究系 教授 川口 淳一郎氏
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所 宇宙航行システム研究系 教授川口 淳一郎氏

 「はやぶさ」プロジェクトは、世界初の挑戦でしたから、前例もなければ参考になるものもありませんでした。ここまでやれば安心というものではないわけです。手探りながら、なすべきことを完全にやり遂げて、それでも予期せぬトラブルは続々と起きてくる。小惑星「イトカワ」に到達する時点ですでに故障している部分も多く、とにかく前途多難でした。

 ですから、少し遅れはしたもののイトカワに到着して、サンプル採取や画像撮影ができたときは嬉しかったですね。もちろん、最終のゴールではありませんから、気を抜くまいとは思っていましたが。

 最大の危機は復路にありました。まず1つめは、2005年12 月の燃料漏れにはじまる数々のトラブルの後、通信途絶状態に陥ったことです。まさに“迷子”の状態でした。小惑星に着陸する際には衝撃を受け、何かが破損するリスクは想定していました。そこで危険物を検出するレーザーセンサの設置やエンジンの二系統化など回避策は講じていましたが、実際にはそれを上回ってしまったわけです。そこで推進剤の直接噴射というイレギュラーな手法を用いることで姿勢を制御し、通信を取り戻すことができました。

 これが「自業自得の困難」なら、もう1つの2009年11月に予測されていた中和機の寿命によるエンジン停止は「予期された困難」と言えるでしょう。このときは、仕込まれていたバイパス回路が功を奏して他の中和機を接続して連動運転し、エンジンとして使用することで、なんとか推進力を得ることができました。

 こうした話をすると、ちゃんとプロジェクトマネジメントできているようですが、残念ながら違います。これらのリスクは総点検の「外」なんです。バイパス接続による運転は“空焚き”を起こすのでNGとされていて、本来は対応策としては正しくないんですよ。それでもやるしかなかったし、結果としてうまくいったと。もう「ラッキーだった」「神様のおかげ」としか言いようがないんです。もちろん、神頼みができるくらい自分たちは最善を尽くしたと思えるし、その根性を出し尽くした上にこそ、幸運が降りてくるのだと実感しましたね。(次ページへ続く

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著者プロフィール

  • 渡黒 亮(編集部)(ワタグロ リョウ)

    翔泳社 EnterpriseZine(Security Online/DB Online) 編集長 大学院を卒業後(社会学修士、中学・高校教諭専修免許状取得)、デジタルマーケティング企業にてデータアナリストとしてCRM分析・コンサルティング業務に従事。2007年4月翔泳社入社。ITおよびビジネス書...

  • 伊藤真美(イトウ マミ)

    フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。

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