社会課題には有効なブロックチェーン
国会で問題になっている財務省理財局による文書改ざんを機に、ブロックチェーンと改ざん防止についての関心が高まっている。
「改ざん防止へのブロックチェーン応用の是非はともかくとして、情報を共有する必要がある」(BCCC事務局 長沼史宏氏)として、文書改ざん防止のためのブロックチェーンによる仕組みの構築や効果を中心にセッションがおこなわれた。
まずBCCCの会員企業である株式会社INDETAILの坪井大輔社長が講演。INDETAILがおこなった「調剤薬局のデッドストック解消サービス」の実証実験を報告した。
北海道は個人経営の調剤薬局が多く、薬のデッドストックの破棄や不正流通が問題になっている。昨年の経産省による法制度の改正により薬の薬局間の取引が可能になったため、それまでの闇的な取引を防止し、薬のトレーサビリティを確保するためのブロックチェーンの応用の実験をおこなった。
ブロックチェーンの基盤としてはオープンソースの「Hyperledger」(ハイパーレジャー)を用いた。製薬業界の卸流通の物流網の改革にも可能性があることが、検証できたという。
「ブロックチェーンは社会課題に対しては有効だが、ビジネスや収益を確保することが難しい」と坪井社長は言う。
「ブロックチェーンでゼロから作る」はナンセンス
BCCCの技術応用部会の森一弥氏(インフォテリア)が、改ざん防止のブロックチェーン応用についてレクチャーした。ポイントは以下の通り。
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改ざん防止の対象になる「文書」とは電子文書、おもにWORD、PDF、Excelなど。これらをそのまま入れるのではなく、ハッシュによって暗号化してブロックチェーンに入れることが出来る。
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ハッシュ値に変換されたデータは元に戻せない「不可逆性」がポイント
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改ざんされたかどうかはブロックチェーンに入れて、使用するタイミングでハッシュ値を照合して確認する。ハッシュ値が同一であれば、改ざんされておらず、少しでも変更があればハッシュ値はまったく違うものになる。(内容だけでなく書体や体裁などの変更も変更があればハッシュ値は変わる)
ではこうした、ブロックチェーンを応用した文書管理システムをどう作るか。森氏は「改ざん防止を検討する組織であれば、すでに何らかの文書管理システムはあるはず。それらを捨てて、ゼロからブロックチェーンでシステムを作るのはナンセンス」という。
通常、企業には、1)専用ベンダーの文書管理システム、2)BOX、DropBox、AWS S3などのクラウドストレージ、3)共有フォルダ、などの文書管理システムがある。
ブロックチェーンを活用するとすれば、こうしたシステムにある文書ファイルから、保存と承認時にハッシュを作成し、ブロックチェーンに書き込む方法が有効で、利用時や確認時に照合するというやり方になる。たとえば、文書がワークフローで「承認」された時にトリガーが働きブロックチェーンに書き込むといった仕組みをが考えられる。
例えばシステム連携ツールのIFTTTやMicrosoft Flow、Asteria Warpなどを用いた「フォルダ監視の仕組み」に、Google Apps Script、AWS Lambda、Azure Function、NODE-REDやAsteria Warp、もしくは自前のアプリケーション開発による「Hash作成とブロックチェーンへの書き込みの仕組み」を加えることで構築が可能と語った。
この場合、気をつけるべきは、「ハッシュ化する前の文書そのものは改ざんできること」、「改ざん時点で即時的にわかるのではなく、ハッシュ値をチェックすることで初めて検知されること」だという。
ブロックチェーンそのものはあくまで「改ざんされていないことを証明する」ものであって「改ざんを不可能にする」ものではない。こうしたことを理解した上で、既存資産を捨てずに、ブロックチェーンの活用を考える方が良いと、森氏は指摘する。また、既存のサービスをうまく使うこと、そもそも「紙を電子化して保存」することではなく、スマートコントラクトの応用や、検査記録などの場合はセンサーなどのデータの発生時点でブロックチェーン化など、プロセス自体を見直す時期に来ているという考えを示した。