デジタル・ビジネスの実現に向けた新しいテクノロジ群の中でも、ブロックチェーンは、低コストで信頼性の高いやりとりを可能にしようとする点において、他の新しいテクノロジ、例えば人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、先進的なアナリティクスとは性質がまったく異なる。ブロックチェーンは、将来社会を変貌させ、企業活動に大きな影響を及ぼす可能性を秘めていることから、企業によるブロックチェーンの検討が広がっている。
従業員数500人以上の日本企業を対象として2018年2月にガートナーが実施したブロックチェーンへの取り組み状況に関する調査の結果、42.6%の企業が、調査など初期的なものも含め、ブロックチェーンに何らかの形で取り組んでいることが明らかになった。一方、取り組んでいないと回答した企業は39.4%であり、その他/分からないと回答した企業は13.4%という結果になった。
ガートナー ジャパン リサーチ&アドバイザリ部門バイス プレジデントである鈴木雅喜氏は、「3年以内にブロックチェーンに取り組む日本企業は、60%程度に達するとガートナーでは予測しています。将来を見通した場合、ブロックチェーンの応用から社会が変化していくことは、ほぼ間違いないとみています」と述べている。
ガートナーはブロックチェーンに関して、以下の仮説を含む展望リサーチも発表している。
■新しいテクノロジ群の一角を占めるブロックチェーンへの理解や試行を進めようとしないIT部門のほとんどが、2021年までに自社のデジタル・ビジネスに向けた活動をリードできない状況に陥る
デジタル・ビジネスを進める上では、主要な新しいテクノロジを網羅的に理解することが欠かせない。既に7割を超える日本企業がデジタル・ビジネスに取り組んでいる。IT部門のみではなく、企業戦略を担う部門やビジネス部門も、話題となっている新しいテクノロジの動向に以前に比べて敏感になっている。
デジタル・ビジネスを進める上で、テクノロジ・リーダーがブロックチェーンへの取り組みを開始していなければ、ビジネス・リーダーは社内の組織ではなく、ベンダーに頼ることになる。テクノロジ・リーダーは、デジタル・ビジネスをテクノロジの側面から支援し、リードしていくために、ブロックチェーンの理解を社内に広げ、取り組みを継続的に進めていくことが必要となる。
■2023年までに日本企業の3割以上が、海外の大企業もしくはテクノロジに強みを持つグローバル企業が作り上げるブロックチェーンを用いたデジタル・プラットフォームの影響を受けるようになる
ブロックチェーンには、柔軟かつ自由に信頼度の高い効率的なやりとりを可能にする側面があり、ブロックチェーンを用いたデジタル・プラットフォーム(テクノロジを組み合わせた、特定のビジネスに向けたサービス基盤)は国や業界の枠を越えて広がっていく可能性がある。これは、日本企業にとって機会ともいえますが、同時に海外発のブロックチェーンが日本に広がる点では、大きなリスクを生み出す恐れがある。
近い将来、日本企業の一部は、海外企業主導のブロックチェーンを用いたデジタル・プラットフォーム上でビジネスを進めることになる。こうした新しいデジタル・プラットフォームは、参加する企業側にもメリットをもたらす可能性が高い反面、プラットフォーム作りをリードし運営する側の企業が、運営に伴う利益や、自社を中心に据えたエコシステムの構築、その上でのサービス追加など、さらに大きなメリットを享受することになるとみている。
鈴木雅喜氏は、ブロックチェーンの状況を踏まえ、次のように述べている。
「ブロックチェーンへの注目度は高いものの、『どう使えばいいのか分からない』『本当に取り組んでいくべきなのか』などの問い合わせもガートナーに多く寄せられています。現在、日本企業はブロックチェーンにどのように取り組むべきか揺らいでいるというのが実情といえるでしょう。多くの企業がブロックチェーンのテクノロジとその特徴やメリットの理解に苦慮している状況を踏まえると、短時間でのキャッチアップは難しく、体験を重ねなければ理解も進みません。まだ多くの部分が未知数とはいえ、ブロックチェーンを無視するのは、すべての企業において危険なことです。企業は、ブロックチェーンへの取り組みを小さくても開始すべきです。まずはブロックチェーンへの理解を社内に広げて、機会/リスク分析を進め、社内外に向けた活用機会を探索していくことが望ましいと考えます」。
ガートナーでは、2018年4月25~27日、「ガートナー ITインフラストラクチャ、オペレーション・マネジメント&データセンター サミット 2018」を開催する。このサミットでは、前出の鈴木ならびにガートナーの国内外のトップ・アナリストが、デジタルがもたらす「破壊」の側面にフォーカスし、ITインフラとオペレーション、さらにはイノベーションの観点から、最新の調査結果や事例を基に知見を提供するという。この記事の内容については会期中、「ブロックチェーンはどのような未来を生み出すのか」(4月25日12:30~13:15、11B)というセッションで解説する。