2023年10月18日、スマートキャンプは「『SaaS業界レポート 2023』から読み解く、SaaS業界のトレンド」と題した記者説明会を開催した。
同レポートは、スマートキャンプ 取締役執行役員COO 阿部慎平氏が共同執筆しており、今年で7回目の公表となる。冒頭、富士キメラ総研のデータを引用し、日本のSaaS市場規模について「毎回上振れる形で数字が修正されており、パッケージ市場と比べてほぼSaaSが占める形となった」と阿部氏。一方、グローバルにおける現況と比較したとき、まだまだ日本市場の規模は大きくないとしており、日本地域別に導入率を見ると首都圏と地方では大きく水を開ける結果となった。
また、スマートキャンプが収集したデータによると、1社あたりのSaaS利用数は1~5個という回答が半数以上を占める形に。従業員規模別にSaaS利用数を見ると、規模の大きさと使用個数も増加する傾向にあるとする。なお、同レポートでは「ホリゾンタルSaaS」「バーティカルSaaS」に大別した形でカオスマップを整理しており、「今年はバーティカルSaaSを加えており、1,500件以上のサービスを掲載することができた」と話す。
「セールスやマーケティング領域は外資SaaSが占めていたが、フロント部分においては国産企業の機能提供が増えてきた印象。また、デジタル化が進んでいく中でセキュリティツールにも注目が高まっている」(阿部氏)
また、国内SaaSスタートアップの資金調達額も増加傾向にあり、2022年には2,000億円を超える結果に。キャディやLayerX、UPSIDERなどを筆頭に80億円以上の資金調達をなしている企業も見受けられ、日本政府による「スタートアップ育成5か年計画」が後押しとなって今後も投資額が増えていくする。
阿部氏は下図を示しながら「ARR成長率30%以上を維持できているのかで明暗がわかれており、LTVを伸ばしていく中でfreeeやChatworkなど、業界全体として単価を引き上げる動きも見受けられる」と指摘。PSRについては、6倍程度に落ち着いてきているとした。
また、生成AIに関しては、コミュニケーション領域ではRevCommやIVRy、バックオフィスではSansanやマネーフォワードi、営業・マーケティングではAppier Group、ACESなど各社が製品に組み込んできており、「これからは、機能として使えるかどうかが鍵になってくる」と述べる。
続いて、マネーフォワードi代表取締役社長 今井義人氏が登壇。「SaaS導入が当たり前になっている一方、シリーズAくらいの段階では、兼任あるいは“ひとり情シス”としてSaaSを管理しているのが実態」とスタートアップにおけるSaaS活用の実態について解説を行う。
スタートアップにおいては従業員数1人あたりのSaaS利用数が増大しており、推定値として50個弱の利用が伺えると今井氏。「社内で正確な利用数を把握できている企業はほんの一部」とも話す。加えて、事業スピードを重視する中ではセキュリティが課題となっており、IPOを目指したり、ISMS取得を考えたりする中で、セキュリティ不足に気づくケースが多いという。たとえば、カスペルスキーによる調査では、退職者の3人に1人が退職後もツールにアクセスできるという結果も報告されている。
また、定着せずに利用されていないもののライセンス返却されていないSaaSも多数存在しており、契約料の値上がりによってコスト増となる中で、同社への引き合いも増えていると今井氏。たとえば、Miroというオンラインホワイトボードツールについて、2年程前には市場寡占状態だった一方、現在ではMicrosoft 365やGoogle Workspaceなど他サービスにバンドルされる状況になるなど、「いろいろなサービスで同様のことが言え、見直すタイミングにきている」と指摘する。
これらを踏まえ、情報システムの担当者にはセキュリティ体制の確保、業務効率化を目指しているケースが多く「管理業務において、いかに楽に効率化するかが鍵」と今井氏。2023年は、“SaaS管理”SaaS市場が盛り上がった1年だったとして、情シス向けのサービスでスタートアップが立ち上がることは珍しく、2024年以降も注目して欲しいと締めくくった。