アイデンティティ(ID)管理サービスを手掛けるOktaは、2026年7月3日、招待制のイベント「Okta AI Identity Summit Tokyo 2026」を開催した。Okta Japan代表取締役社長の渡邉崇氏は、自社調査「AI at Work 2025」の結果として、AIエージェントを導入している企業が91%に達する一方、成熟した戦略を策定できている企業はわずか10%にとどまると明らかにし、この差を埋めるためのセキュリティの考え方を説明した。
渡邉氏によれば、AIエージェントのセキュリティは「エージェントはどこにいるのか」「何に接続できるのか」「接続した先で何ができるのか」という3つの問いに答えることが出発点になる。Oktaはこの3つの問いに応えるフレームワークを「blueprint」と呼び、検知、接続先の管理、実行時の制御を単一のコントロールプレーンで統合する設計を示した。
従業員が使う社内エージェントを統制する「Okta for AI Agents」と、企業が自社製品にエージェントを組み込む際に使う「Auth0 for AI Agents」の2製品はいずれも提供中(GA)で、MicrosoftのDefenderやCrowdStrikeなど他社製品とも連携する設計だという。「1社だけで完結できるとはまったく考えていない」と渡邉氏は語った。
渡邉氏は根拠となるデータも示した。企業内の非人間アイデンティティと人間の比率はすでに100対1に達しており、エンタープライズ環境に導入されるAIエージェント数は2028年までに世界で1億3,000万に達すると予測されている(出典:RSAC 2026/IDC)。稼働している主体が人間かAIエージェントかを区別できない組織は68%に上るという(Graviteeの調査)。
今年米国で開催されたRSAカンファレンスでは、設定ミスのあるMCP(Model Context Protocol)接続がひとつあるだけでAzureのテナント全体が乗っ取られる様子が実演されたと渡邉氏は紹介した。AIエージェントに関連したインシデントを経験した組織は88%に上り、そのうち97%が基本的なAIアクセス制御の仕組みを欠いていたという(Gravitee/IBM Cost of a Data Breach 2025)。国内では、AIエージェントの活用議論が先行し、セキュリティの検討が後手に回っていると回答した日本企業が59.3%に上るとするガートナーの調査も引用した。一方、国内のAIエージェント基盤市場は2029年度に135億円規模に達し、2025年から8倍に成長すると予測されている(ITR Market View)。
渡邉氏はこの1ヵ月ほどの動きとして、業界標準に沿った連携の広がりも紹介した。Google Cloudは2026年6月17日、Geminiとの統合を通じてAIを活用する従業員の安全確保に向けOktaと提携すると発表し、2日後の6月19日にはAnthropicが、Claudeのエンタープライズ向けアイデンティティプロバイダーとしてOktaを選定したと発表した。
さらに6月24日には、Oktaが主導する標準プロトコル「Cross App Access(XAA)」を、AnthropicやAtlassian、Canva、Slack、Zoomなど25社が採用したことが明らかになった。特定ベンダーへの依存を避け、標準規格に対応した中立的な基盤を選んでおくことの重要性を、渡邉氏はこうした動きに重ねて訴えた。
続いて登壇したPraxis代表取締役CEOの村上将一氏は、企業のAI活用を「まず使ってみる」「企業情報と接続して使う」「業務プロセスに組み込んで使う」「AIエージェントによる事業運営の拡張」の4段階でとらえ、多くの企業は現在3段階目で試行錯誤していると指摘した。McKinsey 2025 Global Surveyによれば、少なくとも1つの業務でAIを定常的に利用している企業は88%に上る一方、企業レベルでEBIT(利払い・税引き前利益)への効果を報告した企業は39%、AIエージェントの活用を一部でスケールできている企業は23%にとどまるという。
村上氏は、多くのプロジェクトが実証実験(PoC)で立ち往生する要因として、成果の出るテーマを選びきれない「価値設計」の難しさを挙げた。ある電気設備工事会社の事例では、見積もり用の簡易設計をAIエージェントに担わせ、業務全体を丸ごと任せるのではなく、初期配置の検討や法規確認、工数算出といった具体的な工程に分解した結果、一部の機能では検証段階で生産性が10〜20%向上したという。
最終的には、半日から数日かかっていた業務を30分に短縮することを目指すとしている。ある金融企業の事例はこうだ。投資委員会にかける資料を作成するAIと、経営者やCFO級の視点から論点や資料の不足を指摘するレビュー用のAIエージェントを組み合わせ、委員会にかける前段階で資料品質を高める仕組みを構築している。人間の工数の制約で年間100件程度にとどまっていた投資案件の初期スクリーニングを、数万件から数十万件規模まで広げられる可能性がある、と村上氏は続けた。
村上氏は、こうした権限を伴うAI活用を進めるには、AIエージェントを「職務・権限・責任の境界を定義されたAIエージェント」である「デジタル従業員」として扱う発想が必要になると語った。誰が責任を持つかという所有者、何を操作できるかという権限、何をしたか追える監査、問題発生時に止められる停止といった要素を、人間の従業員と同様に定義する必要があるという。
実務面で組み合わせるべき制御は4つある。AIが参照できる情報を限定する「グラウンディング」、判断の外れによる影響度を測る「リスク度計測」、判断が難しい場面を人に引き継ぐ「エスカレーション」、根拠不足の際に無理に答えさせず処理を止める「アブステイン」だ。こうした基盤としてOktaのようなアイデンティティ管理の仕組みが重要になる、と村上氏は締めくくった。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZine/AIdiverには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail ...
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