クラウドERPの利用について、現在および5年後、10年後の状況を尋ねたところ、「ERPはクラウドでは利用しない」とした企業が現在は73.8%に上りましたが、5年後には24.8%、10年後には15.6%と急減する見込みが示された。
後述する懸念要素もあるため、実際にこのスピード感でクラウドへのシフトが進むとは限らないが、「自社運用型ERPのほとんどをクラウドERPに置き換える」とした企業が現在の4.3%から10年後には28.0%へと増加する傾向にあることも分かった(図1)
企業規模による違いに目を向けると、今後、ERPの機能をクラウドで調達しようと考えている企業の割合は大企業(従業員数1,000人以上)の方が中堅・中小企業(同1,000人未満)よりも大きく、現在はオンプレミスのみと回答した大企業が多い分、クラウドへのシフトがより急速に進む可能性があることが明らかになった。
利用中もしくは今後利用したいクラウドERPの業務用途については、財務会計が73.5%でトップとなり、次いで販売管理(57.5%)、人事給与(53.4%)となった。この結果から、財務会計と人事給与という、制度変更への対応や業務の標準化・効率化に主眼が置かれ、「記録システム」の側面が強い管理系ERPの領域でクラウドERPの利用を考える企業が多いことが分かる。
業界や企業ごとの違いも大きく、「差別化システム」の側面が強い実行系ERPの領域でも、外出先からモバイル経由でアクセスでき、複数の拠点で同じ仕組みを共有しやすい販売管理が、工場での利用が中心となる生産管理の31.6%に比べて、2倍近く選択された。
クラウドERPへの期待と懸念に関する設問において、期待のトップ3は導入コスト、利用コスト、セキュリティの順となり、懸念のトップ3は利用コスト、セキュリティ、サービスの存続性の順に多い結果となりました(図2)。
ガートナーのリサーチ部門リサーチ ディレクターの本好宏次氏は、今回の調査結果について次のように述べている。
「本調査では、クラウドERPについて懸念より期待が全般的に目立ち、5年後、10年後の意向から、中長期的には何らかの形でクラウドERPを利用する企業が主流となる可能性が高いことが明らかになりました。ERPの導入に携わるITリーダーは、こうした動向が自社のERP戦略に与える影響を見極めつつ、ERPベンダーの戦略や、ソリューションのポートフォリオ、ロードマップが自社の方向性と合致しているかを評価すべきです。特に、クラウドへのシフトが急速に進むと見込まれる大企業では、当面はオンプレミスとクラウドのハイブリッド環境が現実解になることを踏まえ、デリバリ・モデルの異なるアプリケーション群をどのように取り入れ、連係させるのか、長期的なERP戦略に沿った形で全体像を描くことが求められます。」
「クラウドERPのコストとセキュリティについては過度な懸念や期待を持つのではなく、ベンダーの提案内容や運用能力を、現実に即して客観的に評価する姿勢が望まれます。具体的には、オンプレミスとの長期的な総合保有コストの比較や、第三者機関によるセキュリティおよび内部統制に関する評価結果の精査などを通じて、社内外のステークホルダーと丁寧なコミュニケーションを取ることが、ますます重要になるでしょう」
この発表の詳細については、ガートナー・レポート「サーベイ・アナリシス:急速に浸透する兆しが見えるクラウドERP」に記載されている。
なお、ガートナーでは2017年3月16~17日、「ガートナー エンタプライズ・アプリケーション戦略&アプリケーション・アーキテクチャ サミット 2017」を開催し、前出の本好氏ならびに国内外のアナリストが、「アプリケーション戦略」と「アプリケーション・アーキテクチャ」を柱に据え、クラウドERPを含むさまざまなホット・トピックについて、最新の調査結果や事例に基づく知見を提供するという。