経営者層とIT部門の課題感に大きな隔たり
冒頭、「システム部門やCIOは『高い期待』と『低い信頼』という環境に取り巻かれている」と松本氏は現状を説明。全社的なデジタル化が進む中、経営者からIT部門への期待値は高まっている。一方、その期待する内容が明確でなく、「経営者がIT部門にやってほしいと思っている部分と、システム部門側がミッションと捉えているところに大きなギャップがある」と松本氏は指摘した。
次に、CIOとIT部門の主要な取り組みテーマを5つ提示した。「グローバル環境への適応と経験」「業績向上に向けた取り組み強化」「タレントマネジメント」「テクノロジー・データに対する深い理解」「新規ビジネスモデルの提案・実現」だ。
中でも、デジタライゼーションの構成要素として、RPAやAIを利用して既存の業務を改善する「業績向上に向けた取り組み強化」とデジタルを使ったビジネスモデルの変革「新規ビジネスモデルの提案実現」の部分に、大きなギャップが潜んでいるという。「本来、新規事業は企画部門のタスクだった。IT部門としては腹落ち感のないまま新規事業の提案などをしていて、そこがギャップとして現れている。例えば、自動車製造メーカーがRPAを使って業務改善を図ろうとすることと、シェアリングエコノミービジネスに参画すべくビジネスモデルを開発して利益を出そうという全く違う種類の働きをIT部門は期待されている」(松本氏)。
事業価値向上には新規ビジネスよりも業務改善が効果的
業務改善と新規ビジネス、どちらの方がより得られる効果が高いのだろうか。松本氏によると、企業の事業価値をEBITDAベースでシミュレーション計測したところ、企業内プロセスのデジタライゼーションで業務改善を行った場合は30~40%の事業価値向上が見込まれるという。一方、新規ビジネスモデルの提案・実現では、業種にもよるが10~15%の事業価値向上しか見込めない。「データとしてだけでなく、我々も肌感として業務改善により得られる効果の方が大きいと感じている」と松本氏は話す。
しかし、サーベイによると、経営者の多くは「新規ビジネスモデルに対するソリューションを誰が出すのか、出てこないのではないか」と恐怖心や焦燥感を抱いていることもわかった。そのため、デジタルを取り扱うことに長けたIT部門が、矢面に立たされやすくなっているのが現状だという。
「あなたの組織に明確なデジタルビジネスのビジョンと戦略があるか」については2015年からの経年データで年々増加。全社規模でデジタルビジネスのビジョンをとらえられるようになってきたことがわかる。デジタルの全社戦略が出てくることと並行して、経営者から見たIT部門に対する満足度も上昇。その理由は、全社的な戦略が決まることで施策、プロジェクト単位にも戦略が落とし込まれ事業内容が明確になるからだ。松本氏は、「決まった事業に見合うソリューションを選び、ものづくりや運用をすることはIT部門が前からやってきたこと。従来型のスタイルになると評価が上がる。逆に言えば、不確実なものに対しておろおろしていると評価が安定しない」とみる。