Watsonの法則と呼ばれる新たな変革期に、IBM自身もデータの時代に合わせ変革した
「25年ごとにビジネスとテクノロジーのアーキテクチャが大きく変革するタイミングがある」―こう語るのは、オープニング基調講演のステージに登場したIBM CEO ジニー・ロメッティ氏だ。ここ60年間を振り返っても、テクノロジーが2回大きく進化している。かつてムーアの法則があり半導体の集積率は18か月で2倍になると言ってきたが、それもすでに覆されている。その後には、ネットワークの価値は、それに接続する端末や利用者の数の2乗に比例する、というメトカーフの法則もあった。
ここからさらに、第3の指数関数的な変化が起こりつつある。それはデータをAIで学習することで、機械が全ての人を超越するようになることだ。「これは後に、Watsonの法則と呼ばれるかもしれません。Watsonの法則の世界では、ビジネスの変革、社会の変革、IBMの変革という3つを意識して欲しい」(ロメッティ氏)
企業がビジネスの変革を行うためのデジタルプラットフォームを、IBMでは提供している。企業は今や複数のプラットフォームを利用するのも当たり前だ。それには自前の環境もあれば、パブリッククラウドもある。パブリッククラウドの中で、隔離し自分たちだけ使うものもある。これらがIBM Cloudとして一貫した形で提供されている。
このIBM Cloudを使い、通信会社のOrangeが始めたモバイル型のオレンジ銀行では、銀行処理の50%でWatsonを使い銀行業務の効率化を図っている。もちろん、IBM自身もWatsonをさまざまな領域で活用している。たとえばセキュリティでは、30年間に発生した数100万件のインシデント情報を蓄積して、それをWatsonで分析し攻撃への対応を行っている。
Watsonで学習した結果をさまざまなプラットフォームで利用することで、より良い判断ができるようになる。IBMでは人財管理でもWatsonのコグニティブを導入している。たとえば人材採用の際にもWatsonの学習結果を利用する。Watsonを利用したことで、人事プロセスの効率化は年間で1億5,000万ドルにも達しているとのことだ。この人財管理におけるWatsonの学習結果は、実は他社のクラウドプラットフォームであるWorkdayのプロセスに組み込まれ利用されている。
このように、Watsonでの学習結果からさまざまな価値が生まれている。とはいえ、Watsonだけ、つまりはマシンだけで何かを実現するのではなく、人とマシンの共存が重要になる。Watsonにより、マシンが専門職の人の手伝いをするのだ。
たとえば医療領域では、すでに医師が診断する手伝いをWatsonが行っている。医療現場などではすでにデジタルプラットフォームの導入を受け入れており、そこで医療の莫大な情報を学習している。それを使って、医師などの判断の高度化を実現している。ロメッティ氏は、データとWatsonでビジネスは指数関数的に成長できると強調する。