アマゾン ウェブ サービス(AWS)は、機械学習サービスの一環として強化学習型の自動走行レーシングカー「AWS DeepRacer」のWebコンソールと実機の提供をおこなう。大日本印刷(DNP)が導入し、AIスキルを持つ人材を育成するために活用し社内レースを定期的に実施することを、2019年5月23日に発表した。
アマゾンは、過去20年間にわたって機械学習への投資をおこなってきた。検索リコメンドエンジンや倉庫でのロボット制御、家庭用ではスマートスピーカー「Alexa」などに、その成果が反映されている。AWSでも、API、マネージドサービス、各種フレームワークや計算基盤を提供してきている。
たとえばAWSのクラウドベースの機械学習サービス「Amazon SageMaker」を使った米国のメジャーリーグ(MLB)のTV番組では、選手や試合の統計分析からの予測数字などが画面に埋め込まれ、視聴者の観戦の楽しみ方を支援する。こうした事例のサービスは「機械学習によって付加価値を生みビジネスに活用する」ことが目的だと、AWSの瀧澤与一氏は語る。
「AWS DeepRacer」はAWSの一連の機械学習サービスの中でも、「強化学習」のスキルを開発者の手に届けるためのもの。1/18スケールの自動運転のレーシングカー、学習と評価のためのシミュレータ、世界中でのレースリーグの提供などの一式のサービスとなる。
強化学習とは、特定の環境下で一連の行動に「報酬」のインセンティブを与えることで、自律的で適切な行動をおこなわせる機械学習の方法。自動走行では、カメラ画像から行動を決定するモデルを作成し、環境(コース)に対して、運転を試しゴールに到達できるようにする。そのためには、「報酬関数」が重要となる。開発者は、AWSのコンソール画面から走行コースを選び、様々なパラメーターから設定した報酬モデルでレースを競う。
レースはバーチャル上での仮想レース「バーチャルサーキット」と、実機による「Summitサーキット」の2種類。バーチャル上で作成された学習モデルをDeepRacerの実機に実装し、実際のコース上を走らせるというもので、今年の6月に開催されるAWS Summitでも仮想レースとともに、ライブイベントでも開催される予定。
「強化学習のモデルをバーチャルから実世界に適用する時に生じるギャップや課題を克服し、自動運転や自動制御などの社会への応用を目指すエンジニアを増やす」とAWS 瀧澤与一氏は語る。
大日本印刷(DNP)では、AI人材育成のためにこのプログラムを活用し、3月より社内レースを開催し、グループ会社を含めた73名が参加している。社内での研究成果などは、Qiitaなどを通じて公開している。
「エンジニアのオーナーシップやフィードバック精神を促し、AWSのリーグでも優勝をめざす」とDNPの福田祐一郎氏は語る。現在DNPのIT人材は、現在約2000名ほどで、AI人材は知識レベルの層を含んで200名ほどだという。その数を「今後5年以内に倍にする」(福田氏)ことを念頭に、AWS DeepRacerには積極的に取り組み、6月にはオリジナルのレーシングコースやエンジニア同士の技術交流の場を提供していくという。
AWS DeepRacerはAWSの管理画面から利用できる。強化学習のコンテンツは無料で、90分間、6つの学習パートで構成される。