なぜ日本企業のDXが遅れているのか
デロイトトーマツの「Tech Trends」の発刊は、グローバルでは10回目、日本版では5回目となる。コンサルティング企業によるトレンド調査は他にもあるが、デロイトトーマツのレポートはグローバルの発表内容に加え、各章ごとに日本のコンサルタントの見解が加えられており、日本企業にとっての課題がわかりやすいことが特長だ。
今回のレポートでは「技術的な内容は減り、どう使いこなすか、どう経営にインパクトを与えるかの記述が増えた」と同社の安井望CTO(最高技術責任者)は語り、その上で「日本企業はグローバルからさらに離されているという印象を持つ」という。
その理由は、「デジタルトランスフォーメーション」(DX)にある。日本企業がDXに遅れているという指摘は多いが、具体的にはどういうことかを、安井氏は以下のように説明する。
DXという言葉は意味が人によってばらばらだが、デロイトは「DX=デジタル技術を活用して企業の競争優位を持つこと」であり「デジタルとビジネスの融合」と定義している。
この場合の「デジタル」とは「データ」と置き換えても良い。世界中の各社が、「デジタル時代のデータドリブン経営」「経営戦略とデジタル/データ」「オペレーションとデジタル/データ」によって「競争優位」を得ようとしのぎを削っている。
この点で、日本はまだまだデジタルとビジネスが乖離している。DXを「戦略の実現までこぎつけられるもの」ととらえられていない。「デジタルに着手しても、PoC(概念実証)ばかりで、疲弊しているのが現状」だという。
その背景には、日本企業の情報システム部が歴史的に外注に依存する体質にあり、「丸投げ体質」を脱却でできていないことがある。さらに今回のレポートで強調されている「企業の文化をテコ入れすること」に、日本企業が手をつけられていないことが理由だ。「本気で変わる意識をもっているのかが問われている」と安井氏は厳しく指摘する。
マクロフォースを牽引する9つのテクノロジー
レポートはA4版で170ページの大著だが、冒頭に「テクノロジーマクロフォース」という図がまとめられている。この章を読めば全体が俯瞰できる内容だという。
マクロフォースとは、クラウド、アナリティクス、デジタルエクスペリエンス、コグニティブ、ブロックチェーン、デジタルリアリティ、コアモダナイゼーション、ビジネスオブテクノロジー、サイバーリスクなど9つのテクノロジー。中心のコアを取り巻き、軌道を描くイメージとしてビジュアル化されている。
AIについては、一時期の万能テクノロジーといった見方から変わり、最近では「AIとヒトとの協働」がテーマとなる。米国では製薬会社のファイザー、人材サービスのAdecco、ヘルスケアのAnthemなどが事例となる。これらの会社は、従来ヒトが出来なかったこと作業の自動化や、既存の製品の強化に適用するど、「AIファーストで文化を変える」ことに成功している。
また従来の基幹システムなどのITインフラの領域は、マイクロサービスなどのモダナイゼーションが進み、企業組織の面でもイノベーションのプラットフォームとなりうる方向に進化している。
注目すべき領域が、サーバーレス/NoOpsのテクノロジーだ。これらはサーバーがなくなることではなく、「NoOps=運用管理がなくなること」を意味する。米国では穀物メジャーのCargill(カーギル)、Verizon(ベライゾン)などが先行している。
「サーバレスはDevOpsと似ており、DevOpsの進化系がNoOpsとも言える。共通しているのは自動化だが、日本では今だにSIベンダーを呼んでセットアップから運用保守までおまかせしているため、DevOpsも遅れている。海外では社内のIT部門が担っているのでスピード感がちがう」(安井氏)
DevSecOpsは、DevOpsの開発の自動化環境の中で、より早くアプリケーションのセキュリティを確保するテクノロジー。アプリケーションを作った後で、脆弱性を解決するのではなく、ソフトウェアの一連のプロセスにセキュリティを担保する考え方で、FDA(米食品医薬品局)やNIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)などが導入。PayPalはDevSecOpsに移行し、分刻みのスキャンやテスト、パッチ当て作業を自動化している。
ブロックチェーンについては、日本では仮想通貨や金融分野が強調されてきたが、海外では基礎技術として定着してきているという。P2Pの特性を活かしたセキュリティの分野や、スマートコントラクトなどの契約処理の分野では、実用化されている。
さらに、AR/VRなどのデジタルリアリティや、5Gなどの次世代通信もBtoBの分野で計り知れない影響を及ぼす。こうしたテクノロジーのトレンドに着目し、日本企業も「文化の変革」に着手すべきと安井氏は協調する。
「日本企業の文化と経営者の意識の変革がファームとしての腕の見せどころで、今後支援をおこなっていきたい。このTech Trendsを活用してアクションにつなげてもらいたい」(安井氏)
「Tech Trends 2019」は下記デロイトトーマツのサイトから無料ダウンロードが可能だ。