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個人情報保護法3年ごと見直しは来年、「匿名加工情報」の内容理解度はわずか3.8%――。


 データサイエンティストの育成やデータ分析業界の発展に貢献する一般社団法人データサイエンティスト協会は、一般消費者1643人を対象に匿名加工情報利用に関するインターネット上での意識調査を行った。調査の結果、匿名加工情報の認知度は15.9%と低く、さらにそのうち匿名加工情報の内容を理解している回答者はわずか3.8%にとどまることが分かった。個人情報保護法の3年ごと見直しが来年に迫る中、周知が急がれる。  また、その利用についても「反対」もしくは「一般論として理解はするが反対」という声が半数を超えた。19年7月12日に開かれた記者説明会で、個人情報保護法に詳しいひかり総合法律事務所の弁護士 板倉陽一郎さんは「これまで事業者側は匿名加工情報利用について『法律を守っているのだから苦情を言うな』という態度を取っていたがそれは誤っている。適切な加工とルールの遵守を徹底したうえで消費者の信頼を得られるよう努力をするべきだ」と話した。

匿名加工情報利用の認知度は想像以上に低迷している

レピュテーションリスク背景、企業は利用に足踏み

 匿名加工情報とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報を指す。現在、法的には一定のルールの下であれば、企業は本人の同意を得ることなく匿名加工情報を活用することができる。しかし、2013年の交通系ICデータ流通問題以降、企業側にレピュテーションリスクを回避する動きが強くなり、データの自由な流通及び利活用が進んでいないのが現状だ。

 同協会は、それらを背景に昨今のデータ流通市場形成に関する国や市場の動向を踏まえた意識調査を実施した。先述した交通系ICカードデータ流通問題の際「気持ち悪い」、「勝手に(個人情報を)売るな」という意見が多く聞かれたこともあり、調査対象を公共の研究を目的とした匿名加工情報の利用に関するものと絞ったという。

 調査の結果、一般消費者における「匿名加工情報」の認知度は15.9%と低く、利用に関する賛否を問われても判断できないという回答が多かった。さらにそのうち匿名加工情報の内容まで知っているという回答者はわずか3.8%にとどまることが分かった。今回の調査を主導した同協会のコミュニティ・ハブ委員会委員長の中林紀彦さんは「今回の調査結果において、想像以上に認知度が低いという点がもっとも衝撃だった。協会として周知対応を行う必要がある」と受け止めた。

出典:一般社団法人データサイエンティスト協会作成[画像クリックで拡大表示]

 その受け止めに対し板倉さんは「認知度向上の取り組みを加速させるべきというのはそのとおりだと思うが、何を認知してもらうのか考える必要がある。政府は現時点で匿名加工情報のブランディング、普及に失敗している。匿名加工情報について消費者の目に触れる機会を増やすと同時に、かなり加工された情報で生データとは全く違うものであると消費者に理解を浸透させなければならない」と助言した。

 また、消費者の理解促進のために事業者側の態度も指摘する。「これまで事業者側は匿名加工情報利用について『法律を守っているのだから苦情を言うな』という態度を取っていたが、それは誤っている。適切な加工とルールの遵守を徹底したうえで消費者の信頼を得られるよう努力すべきだ」(板倉さん)。

匿名加工情報はどれほど「匿名加工」されているのか

 では、匿名加工情報は実際どれほど加工をされているのか。中林さんは「匿名化自体は収集したデータや活用方法によって加工内容が異なってくるため一律に標準化することは難しい。しかしフレームワーク自体を作ることはできるので協会としても取り組みたい」としたうえで、下図のような匿名加工例をあげた。同協会の代表理事 草野隆史さんは「匿名加工情報までいくとAIの推論などを用いても生データを導くことは難しい。マーケティング活用において消費者の抵抗感が大きいであろう精緻なターゲティングなどには使われないと考えている」と話す。

出典:一般社団法人データサイエンティスト協会作成

 板倉さんによると、トップコーディング、ボトムコーディングなどを用いて同じ匿名加工情報の人が必ず2人以上になるようにするなど、特定できないようにする必要があるという。米国の健康情報を取り扱うHIPAA法(Health Insurance Portability and Accountability Act)では、10数種類の匿名加工手法の標準化を用いており、医療関係の症例データベースなどは、そのフレームワークに基づいて加工され使われている。

自然災害に関しては利用許容9割――しかし法的課題も残る

 匿名加工情報に関する認知度が低いものの、どのような研究であれば匿名加工情報利用を許容できるかという質問に対しては「自然災害に関する公的な研究」であれば43.8%が賛成と比較的高く許容されている。また、「性別」「年齢」「居住地(都道府県)」については約9割の回答者が利用を許容できるということが分かった。

出典:一般社団法人データサイエンティスト協会作成[画像クリックで拡大表示]

 板倉さんは「匿名加工情報は一つ一つ加工はされているが個票が残るというメリットと、加工されているので正確な数字を扱うことが難しいというデメリットがある。自然災害などでは概ねの数字を把握できるだけで原因究明などの研究には使えるのではないか」と受け止める。

 しかし、自然災害に関する利用についても課題は少なくない。板倉さんによると、民間企業を対象とした個人情報保護法で定義されている匿名加工情報と行政機関・独法等に定義されている非識別加工情報の窓口は同じ個人情報保護委員会だが、同委員会に自治体は含まれていない。自然災害に関する情報は多くの場合、自治体が保持しており窓口となる。加工基準はほぼ同じにもかかわらず、非識別加工情報は匿名加工情報以上に複雑な制度であり、地方公共団体で活用している自治体はほぼ無いという。板倉さんは「もし官民通じて自然災害に活用するのであれば制度側の手当が必要になるだろう。今のところ民間事業者は使えるが、応用系としては自治体も使えるべきだと思う。来年に控えた個人情報保護法3年ごと見直しを契機にやっていければと思う」と締め括った。

・関連記事-個人情報保護法はどのようにして生まれたか―コンピュータの出現と「人間疎外」という概念

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この記事の著者

野依 史乃(編集部)(ノヨリ フミノ)

1994年福岡県北九州市生まれ 西日本新聞社を退社後2017年12月に翔泳社に入社、EnterpriseZine編集部所属

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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https://enterprisezine.jp/article/detail/12262 2019/07/12 23:00

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