システムダウンによる平均損失額は2億円 いかにして防ぐか
経済産業省が2018年12月に「デジタルトランスフォーメーション推進ガイドライン」を発表し、デジタルトランスフォーメーションへの取り組みが本格的になりつつある。ESGリサーチの調査によると、アプリケーションを10倍の速度で提供できれば需要や機会の獲得は5倍となり、売上目標達成の確率が高まるという。
Dell EMC 鈴木敏通氏は「既にデジタルトランスフォーメーションを実現した日本企業の40%が収益化を果たしています。このデジタルトランスフォーメーションの実現には、企業ITインフラのトランスフォーメーションも必要不可欠です」と指摘する。
続けて鈴木氏は「ITサービスは何らかのデータで組まれていますので、裏を返せばサービスを作りあげているデータ、サービスで作られたデータは保護される必要があります」と強調する。
ではデータを何から保護しなくてはならないのか。データロストの要因には何があるかを考えると、まず人為的なミスや機器のトラブルが挙げられる。加えて近年急増しているのがサイバー攻撃だ。
象徴的なものにランサムウェアがある。企業から個人までをターゲットとし、データを人質にして金銭を脅し取ろうとする。なぜこのような脅威が生まれたかというと、「データが人質として成り立つレベルにまで生活に密着し、重要な価値を持つようになったからです」と鈴木氏は言う。
企業のビジネスで見ると、データロスやシステムダウンによる損失は年々増加している。Dell EMCの調査によると、日本において予期せぬダウンタイムが生じた場合の平均ダウンタイムは19時間、データロスによる平均損失額は約1億4180万円。ダウンタイムによる平均損失額は約5040万円なので、合わせると平均損失額は2億円近くになる。損失データの平均量では約3.3TBだ。
鈴木氏は言う。「こうした事態が起きると機会損失だけですめばいいですが、その後のビジネスにも大きな影響を落とす信用損失につながることもあります。何よりも懸念すべきはITに精通していない経営層の『うちは大丈夫だろう』という根拠のない過信です」
もはや「うちは大丈夫」などと言っていられない。同社の調査によると、日本企業の66%が過去12ヶ月に障害を経験しており、さらに26%が回復不能なデータ損失を経験しているという。後者はバックアップがなかったか、バックアップはあったがリストアに失敗したなどだ。これだけデータが重要性を帯びているなか、自社のデータ保護対策に自信があるのはわずか20%だという。「これでは任意保険に入らず運転をしているような危険な状態です」と鈴木氏は指摘する。
なぜここまでデータ保護が低い水準にあるのだろうか。それはユーザーがデータ保護に求めるものがヒントになりそうだ。ユーザーにバックアップ環境を更改する時に重視するポイントを尋ねると、上位にコストと運用管理性が並ぶ。裏を返せば、コストと運用管理性が現状の課題になっているということだ。
実際にデータのバックアップを実現するには管理用サーバ、ソフトウェア、ストレージが必要になる。加えてオンプレミス(物理か仮想か)、OSやアプリケーションにより、使うツールが変わることもある。こうした複雑さがデータ損失を招くこともある。実際、利用ベンダーが増えるほど、データロスを経験している割合が高まる傾向にある。
マルチクラウド環境におけるデータ保護に必要な要素とは
これからのデータ保護を考えると、忘れてはいけないのがクラウド化だ。現在では多くのワークロードがオンプレミス(物理や仮想)にあるが、ESGリサーチによると2023年には7割がクラウド(IaaSやPaaS)に移行するという予測がある。日本国内の意識調査だと、「全てのサービスをクラウドへ」と「一部のサービスをクラウドへ」を合わせると、4割を超える。適材適所でクラウドサービスを選んでいくと、複数のクラウドベンダーを併用することもありうる。
マルチクラウドの観点からデータ保護を考えてみよう。マルチクラウドだと、さまざまなクラウドベンダーにデータが点在することになる。環境もばらばらだ。多くのデータ保護ツールが「シンプルさ」をうりにするものの、それは製品単体で見た場合だ。管理ツールを複数併用すれば、運用はシンプルでなくなる。
近年データ保護が抱えている課題はデータやユーザー数の増加、プラットフォームの多様化、導入や運用コストの増加がある。これらを解決する要素として、鈴木氏は「管理のシンプルさ」、「多様性に対応できる多機能・高性能」、「データ保護のためのコスト低減」を挙げる。ここまではIT管理者が求めるものとほぼ同じだ。
こうした要素に鈴木氏は「クラウドの活用」も付け加える。実際にクラウドの用途でデータ保護を目的とするものは多い。多くが無自覚だが、今や誰もが持つモバイルデバイスではデータはクラウドに格納され、バックアップもクラウドが使われている。
企業システムだと、ディザスタリカバリやアーカイブのためにクラウドストレージを使うケースが少なくない。クラウド利用の最初の1歩がストレージサービスだったケースも多くあるだろう。かつてはデータ保管といえばテープだった。もちろん今でも有効ではあるものの、クラウドにアーカイブする選択肢もコストや信頼性の観点から現実的になりつつある。
繰り返しになるが、近年のデータ保護が抱える課題を解決する要素として、鈴木氏が挙げたのが「管理のシンプルさ」、「多様性に対応できる多機能・高性能」、「データ保護のためのコスト低減」、加えて「クラウド活用」。
どう実現していけばいいか。鈴木氏は大切な考え方として「データ保護はもはやインフラの一部です。サービスにバックアップをつけるのではありません。バックアップ基盤の上でサービスを動かすことが大事です」と強調する。
基盤としてのバックアップは統合データ保護アプライアンスで実現できる
これまで話してきたことを実現できる具体的な製品として、鈴木氏は統合データ保護アプライアンスDP4400を挙げ、「選択肢の排除を実現した製品です」と言う。必要な機能を全て統合した形で備えており、「この環境なら、これ」「あの環境なら、あれ」というように環境ごとに選択しないですむようになっている。
DP4400は大手基幹システムバックアップで実績ある「Data Domain」とバックアップソフト「Avamar」をDell PowerEdgeサーバに統合したバックアップアプライアンスとなる。
2Uのコンパクトな筐体でありながら、最大96TBのディスク容量がある。クラウド階層まで使えば、さらに192TB増える。豪華な組み合わせなので「それなら高いのでは」と思えるかもしれないが、鈴木氏は「ご安心ください。一度これらの見積もりを取られたなら、(安さに)驚くと思います」と言う。
性能も見ていこう。Data Domainをベースとしているため、強力な重複排除と圧縮が実装されており、バックアップ性能は卓越している。なかでもバックアップ対象側で重複排除処理し、データを小さくしてからネットワーク転送するため、処理の高速化や効率化を実現する。
例えば日本道路では、国内各地に散らばるパソコン2500台のバックアップを1拠点のData Domainで実現した。
日本道路では、埃や粉塵の多い工事現場でもPCを使用することから、その内蔵HDDに障害が発生することがあり、その都度、高額な費用を支払い、データサルベージを依頼していたという。加えて、サイバー攻撃への対応も大きな課題となっていたため、PCのデータを自社内でバックアップできる環境の整備を行った。
バックアップアプライアンスDP4400だと、パソコンや各地のファイルサーバのバックアップだけでなく、多様なサーバ、多様な環境のバックアップにも使える。物理も仮想も、OSならWindowsやLinux、ソフトウェアならOracle Database、Microsoft SQL Server、SAPなどとの連携も可能だ。
三菱ケミカルは4時間半かかっていた基幹システムのバックアップを30分に短縮できたという。鈴木氏は「企業にある、ありとあらゆるデータをこのなかに集約できます」と胸を張る。さらに「この筐体内のデータの複製をどこかに保管すれば、企業内の全てのデータを災害から保護することが可能です」と災害対策としての活用法も付け足した。
鈴木氏はあらためて次のように強調した。「さまざまな環境の変化に対応し、柔軟なデータ保護を実現する“基盤としてのバックアップ”は統合データ保護アプライアンスシリーズで実現することが可能です」