プログラム開発からネットワークの知識も広げてセキュリティの道へ
セキュリティ製品に限らず、IT製品の多くは海外製。そんななか、日本でクラウド型セキュリティサービスを開発している企業がある。グレスアベイルは2015年に創業し、クラウド型のサービス提供と自社開発にこだわり、開発を続けてきた。創業者の1人、澤井さんは「これまではプロダクトマーケットフィットで模索してきましたが、ようやく市場に響くものが出せるようになってきました。今が第二の創業期だと思っています」と話す。これまでの軌跡を追ってみよう。
学生時代。2000年を過ぎたころ、ホームページ制作のバイトをしていたという澤井さん。HTMLやJavaScriptの知識があればそれなりに稼げた時代だ。学費を工面するために勉強を始めたものの、ホームページ作りに面白さを感じられるようになってきた。活動を通じて詳しい人とつながり、扱える領域も広がっていく。C言語も覚え、アプリケーションだけではなくネットワークにもスキルを広げてきた。
そういった経緯から、就職先には富士通系のITサービス企業を選んだ。当時は企業で導入された富士通製品の保守として、現場を多く回ったという。今日では、ほぼ見かけなくなったラインプリンタの保守作業もあったという。澤井さんは「IT機器の保守作業と言っても機器の清掃もするので、ぞうきん持参で」と笑う。中小企業のオフィスを多く回り、ビジネスの現場を体感してきた。
入社間もない2005年当時は、セキュリティ機器といえばIDS/IPSが出始めたころ。現在につながるサイバーセキュリティ対策製品の黎明期だ。澤井さんは研修を通じて、セキュリティ関連製品を学ぶことができた。
しかし、実際の業務は下請け工程が多く、澤井さんは「いずれかの製品を学ぶにはよかったですが、仕事で関われる範囲が狭いと感じていました。もっと要件定義など上流に関わりたいと考えました」と述懐する。
そして転職。最初はネットワーク構築などインフラを手がけていたものの、積極的にセキュリティを学んでいたこともあり、次第にセキュリティ案件がアサインされることが増えてきた。当時サイバー攻撃といえば、サーバーが止まる、サイトが改ざんされるなどの被害が中心だった。
セキュリティ案件をこなしながら、二つの考えが次第に強まってきた。一つはサイバー世界でテクニカルな攻防を繰り広げるなかでの、技術者としての自負。攻撃側も防御側も次々と新しい技術で応戦する。それは永遠に続くいたちごっこのようなものだ。澤井さんは「先回りして、必ず守る」と強く感じていた。
もう一つはセキュリティの重要性。サイバー攻撃を受けるとシステムが崩壊してしまい、関連機器が機能を停止することがある。はじめに担当していたシステムは障害が起きても、人命には影響がなかったが、周産期医療関連のシステムに関わった時「もし何らかの形で攻撃が突破され、システムが機能しなくなったら……」と人命を左右することへの危機感を覚えた。システムを守る立場の責任感を強くしたという。
セキュリティ案件の実績を重ねていくうちに、澤井さんを頼る顧客が増えてきた。仕事の依頼でなくても、セキュリティ関連で相談されることが多かったそうだ。取材中も、目を細めて笑いていねいに回答をしてくれ、温和で誠実な印象を受けた。周囲のみんなが頼りたくなるのはよく分かる。
頼られる理由はセキュリティの知見とその人柄、それだけではない。セキュリティやクラウドの知見があるだけではなく、相手に適したソリューションを見極められることと、うまく相手に伝えられるコミュニケーション能力を持つためだろう。たとえば、全ての企業に最高級のセキュリティ対策が必要とは限らない。業種や業態により優先順位や適した形があり、事業規模により投資できる上限がある。コスト感覚も兼ね備え相手にぴったりくる解決策を見極めることができ、それを理路整然と説明できるのが澤井さんの強みだ。