2019年は国内大手企業でも、本番環境でコンテナを活用する事例が出始めた。しかし米国では既にコンテナは当たり前であり、日本とは大きな差となっている。この差の要因は、日本の多くの企業がコンテナを活用すべきアプリケーションを見出せていないため。これは、結果的に日本でのデジタル変革の遅れにつながるといった話を、ガートナーの桂島氏のインタビューを基に前編では解説した。後編ではベンダーの動きから今後のコンテナ、Kubernetes、さらにはマルチクラウドの動向を探る。
クラウドベンダーを中心にマルチクラウド、ハイブリッドクラウドの実現に注力
2019年にGoogleがコンテナベースのオープンなアプリケーションプラットフォーム「Anthos」を発表したことなどで、クラウドベンダーのマルチクラウド、ハイブリッドクラウド戦略が注目された。中でもハイブリッドクラウドをよりハイスピードに仕掛けているのがAmazon Web Services(AWS)だ。AWSのサービスをオンプレミスで実行する「AWS Outposts」をリリースしている。
Outpostsはエッジでも利用できる。たとえば機械学習を工場で行いたい時に、画像データなどをいちいちパブリッククラウドに送ったのでは時間とコストがかかる。そこで工場のライン近くにOutpostsを置き、機械学習の処理をエッジで行う。機械学習処理のアプリケーションなりは、コンテナ化しエッジに送り込む。実際エッジコンピューティングでのコンテナ活用が増えていると、桂島氏は言う。
ここ最近はマルチクラウドを実現する技術として、コンテナやそのオーケストレーションの仕組みであるKubernetesが注目されている。Kubernetesが動いていればアプリケーションの互換性が確保でき、マルチクラウドで使えると一般的には認識される。しかし「これは言い過ぎなところもあるでしょう。Kubernetesの上で動くアプリケーションそのものには可搬性はありますが、アプリケーションはそれだけで動くわけではありません」と桂島氏。

ガートナージャパン リサーチ&アドバイザリ部門 テクノロジ&サービス・プロバイダー
インフラストラクチャ ソフトウェア シニア ディレクター アナリスト 桂島 航氏
アプリケーション以外にも、本番運用には監視やログの仕組みが必要だ。他の環境に移動すれば、それらを新しい環境でどうするかの問題が発生する。他にもKubernetesの外で動くものがかなりたくさんある。データベースのサービスやストレージ、AWSならばAmazon RDSやS3にアプリケーションが利用するデータを置くのは普通。それらもなければ、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境は実現できない。
Outpostsは、そこに踏み込んだサービスだ。AWSのOutpostsのアプローチでは、垂直統合の度合いはかなり激しいものがある。垂直統合を深く行うことで、環境はシンプルになる。「そこをAWSは狙っていると思われます」と桂島氏。一方で垂直統合度合い強くしすぎると、外部パートナーなどの価値を載せ難くなる。このあたりは、一長一短のアプローチだとも言える。
マルチクラウド、ハイブリッドクラウドは、ガートナーでは分散型クラウドとして大きな技術トレンドの1つと位置づけている。今後は雲の先にある集中型クラウドだけでなく、エッジやオンプレミス、最近では5Gネットワークの先にも分散されたクラウドがある。この環境の実現で使われるのが、コンテナ技術だ。そしてソフトウェア型のコンテナ技術としてシェアを伸ばしているのが、Red Hat OpenShiftだ。OpenShiftもソフトウェアからのアプローチで、マルチクラウド、ハイブリッドを実現しやすくするソリューションだ。

パブリック・クラウドの影響範囲の拡大
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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