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【SIベンダ必読】ソフトウェア受託開発の収益認識はこう変わる、KPMGコンサル、あずさ監査法人に訊く

edited by Operation Online   2020/03/25 06:00

長期の受託案件は契約統合の可能性大

――ベンダーは現在の契約書フォーマットを見直す必要があるとわかります。

荻野:もう一つ、現行の基準運用で問題になりそうなのが、金額でどちらの基準で計上するかを判断しているようなケースです。例えば、xx万円以上のものはコスト計算をきちんと行っているので進行基準。それ以下は手間がかかるので、コスト計算を実施しておらず、完成基準を適用するようにしている場合です。新基準はコストの見積もりが合理的に可能か否かは関係ありませんから、正しい対応が今後の検討課題になります。

――その金額は企業ごとに違う可能性がありますね。

荻野:その通りです。厄介なことに、新基準では「極めて短期のもの」に例外的に完成基準の適用を認めると定めていますが、具体的にどのぐらいの期間の案件かを明示してくれていません。おそらく、四半期ごとに決算報告をするので、3カ月を超えたら短期とは言えないと解釈することになるとは思います。

 また、新基準で何も言っていないことに「金額の重要性」があります。仮に数千万円の案件と数十万円の案件があったとしたら、後者を進行基準でやろうと思うでしょうか。やってもやらなくても全体に影響がない。ならば実務ではやらないですませよう。いかに仕事を増やさずにすませるか。そこにマネジメントの意思が入ってきます。つまり、細かく管理してマネジメントの精度を高めたいのか。それとも手間暇かけずに簡素化したいのかを各会社のマネジメントは判断しなくてはなりません。

――ソフトウェア受託開発の契約では要件定義、概要設計、詳細設計、開発、テストまでの一連のプロセスを段階的に契約しているケースがあります。フェーズごとに契約している場合の収益計上はどう考えればいいですか。

友田:ステップ1の「契約の識別」がポイントです。商品の購入と同時に保守サービスを契約するケースで典型的ですが、同じお客様との間に複数の契約を「同時またはほぼ同時に」「同一の商業目的」のために契約する場合、契約を一つにまとめる必要があるのです。ソフトウェアの受託開発の場合、フェーズを分割していて、成果物としてドキュメントを納品するようなケースです。複数の契約が最終成果物のソフトウェアという便益のために切り離せないものだとすると、「同一の商業目的」に当てはまることになり、契約を一つにまとめる必要があります。

――中間成果物としてのドキュメントはありますが、最終成果物のソフトウェアとの関係を問われると苦しいところです。

友田:つまり、要件定義が終わった段階で収益を計上するには、「要件定義書」だけでお客様が便益を得られるのかを判断しないといけないわけです。得られるとしても、最終成果物であるソフトウェアを作るためのインプットとして意味があるか。あるとしたら、契約は一つにしなければなりません。

荻野:通常、その場合の複数契約は、関連性がある一つのものとして整理することになると思います。要件定義書だけを別の会社に売ることはないですよね。ソフトウェアが最後までできて初めてお客様は便益を受けられるとみなされるはずです。

 一方、開発後のソフトウェアの運用は、サービス提供に従い、お客様が便益を享受したときに履行義務が充足されるとみなされます。軽微な開発を伴う保守の場合は、いつ、何をするかが明確に決まっているのであれば、完了した時点で収益を認識します。いつ、何をするかが明確に決まっていなくても、24時間365日ずっとサービスを提供している場合やサービス提供のために待機している場合は定額で収益を認識します。

SIベンダーに求められる顧客との対話

――民法改正の影響で検収がトラブルの元になりそうで心配です。契約時の話し合いが重要とわかりましたが、引渡しのところの条件も見直す必要がありますか。

荻野:それも契約条件次第です。今はテスト後に、お客様の承認をもらってから収益を計上していると思います。本当に完了しているかの判断をどうするかは、検討しないといけない項目の一つになる可能性があります。

友田:新基準では、基本的にものやサービスを「お客様が支配することになった時」に収益を計上します。検収後に不具合が見つかった場合、突き返されるでしょうから、その条件は明確にした方がいいと思います。

荻野:基準の言葉の「履行義務」はお客様との約束ごとで、収益認識のタイミングはお客様と約束を果たした時点です。実務上、曖昧になっているのかもしれませんが、どのタイミングで約束を果たすのかを整理する必要があるということです。

友田:新民法では瑕疵担保の期間が延びていますし、ベンダーの責任範囲は大きくなります。お客様と契約条件を交渉することが必要です。

荻野:その意味では何がお客様との約束かを明確にし、契約書に織り込むことが不可欠です。

――お話を伺っていると、経理部門だけでなく、現場のマネージャーたちの意識改革が必要だと感じます。

荻野:民法のリスク回避の観点からも、契約内容の明確化は現場にも徹底させる必要があります。今回の新基準は、契約社会の欧州から来た動きです。本当は「契約で決まっていることをその通りに処理しよう」というとてもシンプルな話なのです。文化が違う日本企業にとって、最初は大変ですが、最終的にはお互いの利益になることです。

――今回の新基準や民法改正を、お互いの話し合いで成熟した取引ができるようになるきっかけにできればいいと思います。



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著者プロフィール

  • 冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

     IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタントとして活動中。ビジネスとテクノロジーのギャップを埋めることに関心があり、現在はマーケティングテクノロジーを含む新興領域にフォーカスしている。

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