新基準でも残る進捗に応じた収益の認識
――今までのソフトウェア開発では工事進行基準(以降、進行基準)と工事完成基準(以降、完成基準)が認められていましたが、2021年4月からは収益認識にあたり新基準を適用することになります。SIベンダーから見た時、何がどう変わるのでしょうか。
友田:前回、「ほとんどルールがないに等しい状態だったところに新しいルールができる」とお話ししましたが、ソフトウェア開発と建設工事契約の場合に限ってはルールがありました。2021年4月からは新収益認識基準の適用が始まるので、以降は5つのステップに従ってステップ1の「契約の識別」からステップ5の「履行義務の充足による収益の認識」までを進めていくことになります。工事進行基準や工事完成基準という言葉はもう使われなくなりますが、ステップ5で履行義務が一時点で充足するものか(完成基準)、一定の期間の進捗に応じて充足するものか(進行基準)の判断が必要になるので、考え方自体は残ります。
――「進行基準が廃止になる」と聞くと、全く新しいルールができると考えてしまいますが、そうではないのですね。
友田:現行の「工事契約に関する会計基準」では、「総原価」「収益総額」「進捗度」の3つを合理的に見積もることができる場合に進行基準の適用が認められています。要するに、長期の案件については、最終的に費用がいくらかかるか、報酬がいくらになるか、途中の進捗度がどの程度かがわかれば、進捗度に応じてコストと収益を認識できるとされているのです。
荻野:進捗度は、トータルコストのうちどのぐらい発生したのかにより判断することが多いです。契約期間中、全く同じ作業をする場合は月割になりますが、ソフトウェア開発や建設工事の場合、コストの発生が作業の進み具合を表しているケースが多い。先に挙げた3つを信頼性をもって見積もることができる場合は進行基準、できない場合は完成基準で処理していたわけです。
友田:ちなみに、新基準ではこれまでは認められていなかった原価回収基準が採用されることになりました。原価回収基準とは、進捗度を合理的に見積もれない場合でも、コストと同額の収益を計上するというものです。進捗度がわからない時は収益計上ができなかったのですが、コスト見合いの分はできるようになった。それは大きな違いです。
荻野:ただし、原価回収基準については、むやみやたらに適用できるものではないことを強調しておきます。基本的には履行義務を一時点で充足するか、一定期間の進捗に応じて充足するものかのどちらかです。